ペットと法②-飼い主の責任

弁護士野田俊之

先日,毎日新聞の報道で,大阪府高槻市の40代男性が,ランニング中に飛び出してきた犬を避けようとして転倒し右手首を骨折したとして,飼い主の女性に対して約3950万円の損害賠償を求めていたという訴訟について,大阪地方裁判所が,飼い主の女性に対し,約1280万円の支払を命じたとの報道がありました(平成30年3月23日毎日新聞)。

 

今回は,上記の裁判例に関連して,ペットが第三者に怪我をさせるなどの損害を負わせてしまった場合に,飼い主がどのような責任を負うのかという点について,ご紹介させていただきたいと思います。

 

1 民法718条に基づく動物の占有者等の責任

 

ペットが第三者に怪我を負わせるなどの損害を負わせた場合,飼い主は,民法718条1項に基づき,「動物の占有者」として,第三者に生じた損害(第三者の生命身体に損害を与えた場合だけでなく,第三者の所有する物に損害を与えた場合も含みます。)を賠償する義務を負うこととなります

 

但し,飼い主が「相当の注意」をもって,ペットの管理をしたことを飼い主の側が証明することができた場合には,飼い主は,第三者に生じた損害を賠償する義務を免れることとなります

そして,この「相当の注意」については,「通常払うべき程度の注意義務を意味し,異常な事態に対処しうべき程度の注意義務まで課したものでない」と解されており(最判昭和37年2月1日民集16・2・143),具体的な裁判例においては,①動物の種類・年齢・雌雄,②動物の性質・性癖・病気,③動物の加害前歴,④飼い主の職業・保管に対する熟練度・動物の馴到の程度・加害時の措置態度,⑤保管の態様,⑥被害者の警戒心の有無・被害誘発の有無・被害時の情況などの諸般の事情を考慮して,責任の有無が判断されています(堀龍兒他著「ペットの法律相談」245頁参照)。

 

以上の通り,ペットが第三者に損害を負わせた場合,民法上,原則として,飼い主がその損害を賠償する責任を負い,「相当の注意」をもってペットの管理をしたことを飼い主が証明することができた場合に限り,その責任が免除される仕組みとなっていますので,飼い主はペットの管理に関して厳しい責任を負うのが現状ということができます。

 

なお,民法718条2項の定めにより,ペットの飼い主だけでなく,飼い主からペットを借りたり,預かっただけの者も,「動物を管理する者」として,ペットが第三者に負わせた損害を賠償する義務を負うこととされています。そのため,例えば,飼い主から飼犬を預かった者が飼犬の散歩をしているときに,飼犬が通行人に咬みついたというような場合,この飼犬を預かっただけの者が損害賠償責任を負うこととなります。

もっとも,この場合でも,飼い主は,相当の注意をもってペットの保管者を選任・監督したことを証明しない限り,保管者と共同して責任を負うこととなります(この点については,最判昭和40年9月24日民集19・6・1668が,「動物の占有者と保管者とが併存する場合には,両者の責任は重複して発生しうるが,…占有者は「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその保管」者を選任・監督したことを挙証しうれば,その責任を負わないものと解するのが相当である」と判示している通りです。)

 

■条文

(動物の占有者等の責任)

第718条 動物の占有者は,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは,この限りでない。

2 占有者に代わって動物を管理する者も,前項の責任を負う。

 

2 飼い主の責任に関する裁判例

 

実際の裁判例においては,ペットが第三者に損害を負わせた場合に,飼い主が責任を負うか否かという点について,以下のような判断がなされておりますが,裁判例上は,飼い主が「相当の注意」を尽くしたことを理由とする免責立証を容易に認めない傾向にあると考えられています。

 

①肯定例

■名古屋高判昭和36年7月20日判時282・26

散歩中の飼犬が,路上を通行していた少女に飛びつき咬みついたという事案について,飼犬を散歩する場合には,「飼主としては犬の首輪を片手で強く握持し他の片手でその綱を握るとか,またはその綱を両手で,しかも首輪にごく近く持つとかして犬の動作を十分制御しうる態勢をとるべきことは当然のこと」であるとして,飼い主の責任を肯定した事例。

 

■大阪地裁堺支判昭和41年11月21日判時477・30

被害者が,飼い主から依頼された電気工事のために飼い主の自宅を訪れたところ,飼犬に咬まれたという事案について,「犬の飼育主の依頼によって,電気の取付けその他修理工事をする他人が,その仕事の関係上鉄鎖で繋留されている犬に近づかねばならぬ必要があり,そのことが飼育主に予見せられる場合においては,他人に咬みつく癖のある犬を単に鉄鎖で繋いだだけでは,動物の占有者として相当な注意を払ったということはできない。すべからく,かかる場合は,飼育者において犬に口輪をはめおくか,または予め工事人に対し人に咬みつく癖のある危険な犬であることを告げ,犬を警戒し犬に接近する場合は家人の付添を求めるよう注意を与える等の処置に出ずる義務があるものといわなければならない」として,飼い主の責任を肯定した事例。

 

②否定例

■東京地判昭和52年11月30日判時893・54

空地上の物置の柱に長さ約2mの鎖で繋がれて飼育されていた犬が,空地へ立ち入った者に咬みついたという事案について,空地が通り抜けのできない土地であり,一般人に開放された土地ではないことが外見上明らかであったこと,飼い主に咬みついた以外は人に咬みついたことはなく特に危険性のある犬ではないことなどを考慮して,飼い主が「相当の注意」を尽くしていたとして,飼い主の責任を否定した事例。

 

3 飼い主が負担する損害の範囲

 

そして,飼い主が,ペットが第三者に与えた損害を賠償する責任を負うこととなった場合,飼い主は,ペットの行為と相当因果関係の認められる範囲の損害,すなわち,社会通念上,ペットの行為により生じた損害であると認めることが相当と判断される範囲の損害について,賠償する責任を負うこととなります

具体的には,飼い主は,第三者に生じた治療費,通院交通費,休業損害,逸失利益,慰謝料などの損害を賠償する義務を負うことになります(この点については,典型的な不法行為の一つである交通事故によって生じた損害の範囲の問題と同様に考えることができますので,拙稿「【交通事故法務の基礎知識①】損害の種類」をご参照ください。)。

 

また,ペットが第三者に損害を与えた場合であっても,被害者側に何らかの落ち度がある場合には,被害者側にも過失が認められることを理由に,飼い主が賠償しなければならない損害額が減額されることがあります(このような考え方を「過失相殺」といいますが(民法722条2項),この点についても,交通事故と同様に考えることができますので,拙稿「【交通事故法務の基礎知識⑤】過失割合・過失相殺とは」をご参照ください。)

例えば,広島高裁松江支判平成15年10月24日判時477・30は,被害者の側が飼犬に手を差し出し,顔を近づけるなどの行為をしたことが,飼犬による咬傷事故を誘発したと認定した上で,5割の過失相殺(減額)を認めています。

 

 

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