ペットと法④ーペットの相続?

弁護士野田俊之

既にご紹介させていただいた通り,現在の日本の法制度においては,ペットは,基本的に,「物」としての扱いを受けるにとどまっており,権利義務の帰属主体となることはできませんので,飼い主が,自らの死後,ペットに対して,財産を遺したいと考えたとしても,ペットに直接財産を承継させることはできません(この点については,拙稿「ペットと法①―ペットの法律上の地位」もご参照ください。)。

 

もっとも,以下で述べる方法により,飼い主が亡くなった後に,ペットに自らの財産を相続させるのに近い結果を実現することができます。

 

1 負担付遺贈又は負担付贈与を利用する方法

 

まず,負担付遺贈又は負担付贈与を利用するという方法が考えられます。

 

(1)負担付遺贈

負担付遺贈とは,遺言によって,受遺者,つまり遺贈を受ける者に対して,財産を与える代わりに,一定の義務を負担させる行為を言います(民法1012条)。

そこで,例えば,飼い主が,遺言によって,親族等に対して,自身の財産を遺贈する代わりに(特定の財産を遺贈することも,財産の4分の1というように割合を指定して財産を遺贈することも可能です。),ペットの世話をするという義務を負わせるということが考えられます。

しかしながら,遺贈は,法律上,単独行為とされ,遺贈者(今回のケースで言えば飼い主)の意思のみによって行うことができるため,受遺者が上記のようなペットの世話をするという負担付の遺贈を承諾してくれるとは限りません。そのため,飼い主が負担付遺贈により,第三者に対して遺贈を行う場合には,あらかじめ,受遺者の意向を確認し,受遺者の同意を得ておく必要があると思われます。

また,飼い主としては,受遺者が遺言に従ってペットの世話をしてくれるかどうかを監督することができませんので,遺言において遺言執行者を指定し(民法1006条),受遺者が遺言に従ってペットの世話をするよう監督させることが望ましいと思われます。

 

なお,遺言による遺贈については,法律上,要式行為とされ,一定の方式に基づく書面の作成が必要になりますので,注意が必要です。

 

(2)負担付贈与

負担付贈与とは,受贈者,つまり贈与を受ける者との間で,受贈者に対して,一定の義務を課す代わりに,財産を贈与することを合意することをいいます。

そこで,例えば,飼い主が,親族等との間で,財産を贈与するとともに,ペットの世話をするという義務を負わせるという内容の合意を成立させ,贈与契約書を締結することが考えられます。そして,今回のように,受贈者に対して自らの死後のペットの世話をしてもらうという負担を負わせるためには,飼い主が生きている間に,生前贈与契約により,自身の財産を贈与するとともに,ペットの世話という負担を負わせることも,自らの死亡によって贈与の効力が生じると定めること(負担付死因贈与契約)も考えられます。

しかしながら,この負担付贈与契約を締結した場合も,負担付遺贈の場合と同様,贈与者が死亡した場合に,受遺者が契約に従ってペットの世話をしてくれるとは限りませんので,死因贈与契約において,死因贈与執行者を指定するなどの方法により,受贈者がペットの世話をするようチェックすることが望ましいと思われます。

 

2 信託制度を利用する方法

 

次に,信託制度を利用するという方法が考えられます。

 

信託とは,「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう」と定められております(信託法2条1項)。

すなわち,ある財産を保有する者(これを委託者といいます。)が,特定の者(これを受託者といいます。)に財産を預け,受託者が,委託者の定めた一定の目的に沿って,委託者自身又は委託者の定めた第三者(これを受益者といいます。)のために,財産を管理・運用・処分する制度です。

※信託法上,「委託者」とは,信託契約,遺言信託,信託宣言により信託をする者,「受託者」とは,信託行為の定めに従い,信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者,「受益者」とは,受益権を有する者をいうと定められております(信託法2条4項から6項)。

 

今回のケースであれば,飼い主としては,信託を用いることにより,自らの死亡後も,受託者において,ペットのために,自らの財産を適切に管理してもらうことが期待できます。

例えば,飼い主(委託者)が,親族等との間で,信託契約を締結し(この場合,親族等が受託者となります。),信託契約において,ペットの世話をしてくれる人を受益者として指定した上で,受託者において,委託者の財産を適切に管理するとともに,受益者に対してペットの世話のための費用を交付する義務を負わせるという枠組みを設定することが考えられます(ペットの世話をする人は,受託者から飼育費用の給付を受けることになりますので,「受益者」と位置づけられます。)。

なお,ペットについては,既に述べた通り,権利義務の帰属主体となることができないため,信託法上の受益者になることができないところ,ペットの利益を図ることを目的として,受益者の定めのない「目的信託」という方法を利用するという方法も考えられますが,目的信託については,存続期間が20年に制限される(信託法259条),受託者が純資産が5000万円を超える法人等に限定される(信託法附則3項・施行令3条)等の制約があるところです。

 

 

以上の通り,現在の日本の法制度においては,ペットに対して,直接,自らの財産を遺すことはできませんが,自分の身にもしものことがあった場合に備えて,あらかじめ一定の準備をしておくことは可能です。そのための具体的な方法については,お気軽にご相談ください。

 

 

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