ペットと法⑤ーペット公害

弁護士野田俊之

残念ながら、ペットを飼われている飼い主の中には、ペットが排泄した糞尿を適切に処理しない方や、飼犬が昼夜問わず吠えているにもかかわらず無視している方など、適切とは言えない飼育方法を取られている方も散見されます。

そこで、このような不適切な飼育方法でペットを飼育している飼い主に対して取りうる対応について、ご紹介したいと思います。

 

1 動物愛護管理法に基づく対応

 

(1)動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「動物愛護法」といいます。)は、「動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」と規定しています(7条1項)。

そこで、近隣住民の立場として、飼い主の方に対し、同法に基づいて、ペットを適切に飼育するよう求めるという対応が考えられます。

 

しかしながら、動物愛護法7条1項に基づく飼い主の義務は、努力義務とされており、義務違反があったとしても、罰則その他の制裁が科されるわけではなく、飼い主が当該義務を尽くすかどうかは、飼い主の任意に委ねられることとなりますので、実効性を欠くと言わざるを得ません。

 

(2)また、動物愛護法は、「地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をすること、多数の動物の飼養及び保管に係る届出をさせることその他の必要な措置を講ずることができる。」と規定しています(9条)。

さらに、一定の場合には、都道府県知事から、飼い主に対して、生活環境が損なわれている事態を除去するために必要な措置をとることを勧告することができると規定されています(動物愛護法25条1項。但し、都道府県知事が当該勧告を出すにあたっては、都道府県知事において、「周辺住民の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態」であると認定される必要がありますので、同条項に基づく勧告は、実際上はハードルが高いと考えられます。)。

 

この通り、飼い主の任意により、適切な対応が取られない場合には、地方公共団体又は都道府県知事を通じて、飼い主に対して、改善を求めるという対応が考えられますが、地方公共団体又は都道府県知事が実際にどのような措置をとるかは裁量に委ねられることとなりますので、地方公共団体又は都道府県において積極的な措置が取られることはあまり期待できないのが実情です。

 

2 民法に基づく対応

 

(1)飼い主に対する損害賠償請求

 

上述の対応では改善が見られない場合、飼い主に対して、民法上の不法行為(民法709条・718条)を根拠に、損害賠償を請求するという方法も考えられます。

 

(2)過去の裁判例

 

過去の裁判例においても、以下の通り、飼い主について、飼犬の鳴き声や糞尿の放置などが、社会生活上、近隣住民の受忍すべき限度を超えているといえる場合には、10万円~30万円程度の慰謝料の賠償責任が認められております。

そして、以下の裁判例からすれば、飼犬の鳴き声の大きさや時間帯、鳴き声や糞尿の放置がなされる頻度、近隣住民からの苦情申し出の有無、近隣住民からの苦情に対する対応の有無その他諸般の事情を考慮して、社会生活上、受忍すべき限度を超えているか否かが判断されることになると考えられます。

 

■横浜地判昭和61年2月18日判タ585号93頁

近所の飼犬(マルチーズやシェパードなど)の鳴声が、長時間にわたり、連日のごとく深夜・早朝に及ぶなど極めて異常なものであったため、神経衰弱状態に陥ったX1・X2夫妻(近隣住民)が、飼い主Yに対して、民法718条に基づいて慰謝料を請求した事案について、

・「犬(コンゴ・テリアのごとく殆んど声が出ないものを除く。)は、本来、吠える動物であるが、無駄吠えを抑止するためには、飼主が愛情をもつて、できる限り犬と接する時間をもち、決つた時間に食事を与え、定刻に運動をする習慣をつけるなど規則正しい生活の中でしつけをし、場合によつては、専門家に訓練を依頼するなどの飼育が肝要である」ところ、Yには、「その飼犬に対し、飼育上の配慮をすべき注意義務(保管義務)があり、その義務を尽していたならば、先に説示のごとき異常な鳴声を防止できた筈というべきである」が、Yは、昼間殆んどが不在がちであり、飼い犬が家人と一緒に運動させられることは殆んどないことなどから、上記保管義務を尽したものとはいえない、

・Yは、シェパード及びマルチーズをそれぞれ1ないし2匹飼つていたところ、ジョニーと呼ばれたシェパードは、特によく鳴く犬で、Y方が留守の時には一晩中でも吠え続けてXらを悩まし、マルチーズもまた、甲高い声で鳴き続け、その程度は、前叙のとおり極めて異常といわざるをえないものであり、そのために、Xらは、神経衰弱状態となり、X2が失神することもあつたほどなのであるから、Xらが肩書住所に入居した際その存在を認識した鳴声から推測される被害の程度を大きく超えるものであつた

などと判示して、1人につき30万円の慰謝料を認容した原判決を支持した。

 

■京都地判平成3年1月24日判タ769号197頁

X1~X3は、Yから2階建て建物の一部を借りて、Y一家と同じ建物に居住していたところ、Yが飼育し始めたシェパードの雑種の子犬の吠え声が大きく、また、中庭で排泄された子犬の糞が直ちに除去されずに、堆積して悪臭を放つこともしばしばであったが、Xが度々苦情を申し入れても改善されなかったことから、Yに対して、慰謝料を請求したという事案について、

・「一般家庭における飼犬の騒音(鳴き声)又は悪臭による近隣者に対する生活利益の侵害については、健全な社会通念に照らし、侵害の程度が一般人の社会生活上の受忍限度を超える場合に違法となるものと解すべきところ、通常家庭犬の飼育は、防犯目的の必要性の顕著な特段の場合を除き、副次的に防犯目的がある場合を含め、生活必需性が希薄である場合が多いから、受忍限度を狭く解すべき要因を含む反面、近隣住民間の立場、態様の相互性、互換性から、寛容・円満な人間関係の形成が要求される点において、受忍限度を広く解すべき要因の存在も否定できない。」

・「本件シエパード犬はYにとって愛玩用に類する飼犬と認められ、その点で生活必需性は希薄であるから受忍限度は狭く解すべきであり、一方で、当事者間は賃貸人・賃借人の関係で、しかも戦前からの付合い関係にあり、かつ、同一建物内で密着して生活し合い、共同使用中の中庭における出来事を中心とすることを考えると、受忍限度は広く解すべきこととなるけれども、さきに認定した加害行為の態様からすれば、本件の場合、右後者の事情を考慮に入れても、Yの行為は、その結果から見て、社会生活上の受忍限度を超えるもので、違法となるものというべきである。」

・「Yは、本件犬の鳴き声による騒音、糞の放置による悪臭・蝿の発生の解消に真撃に努力しなかった飼犬飼育上の違法行為により、本件賃借部分に居住するXらが受けた肉体的・精神的損害を賠償する義務がある。」

・慰謝料の金額について、「Yが本件加害行為の改善に消極的であった背景には、X1に対する本件賃借部分の明渡し要求又は賃料増額要求が実現しないことによる顕在的又は潜在的な加害意欲が認められること、反面、以前の飼犬の場合には相互に円満に推移した事情、犬に関する口論にはX1に挑発的な言辞が見られること、X1はYに対して報復的な行為に出ていること、Yはすでに本件犬を他に譲り渡し、今後中庭で犬を飼育しないことを誓約していること、その他諸般の事情」から、YがX1X2に支払うべき慰謝料額は、各金10万円とするのが相当である。

と判示し、X1・X2について、各10万円の損害賠償請求を認容した(X3については、X1X2の子であるという以外に主張立証がなく、中庭に面しない部屋で寝起きしていることから、請求を棄却した。)。

 

■東京地判平成7年2月1日判時1536・66

X1は、閑静な住宅地に所在する共同住宅を所有し、その一室でX2と居住していたところ、同建物と道路を挟んで向かいにある住宅に居住するY1~Y3の飼育する飼犬(Y1が柴犬1匹、Y2がピレニアン・マウンテンドッグ1匹と紀州犬1匹、Y3がピレニアン・マウンテンドッグ1匹を飼育)の鳴声による慰謝料を請求した事案について、

・「Yらの4匹の飼犬は、遅くとも平成3年1月から(Y3の飼犬については平成4年2月から)本件訴えを提起するに至るまで、連日、一定時間断続的に鳴き続け、その時間が夜間又は朝方にかかることか多かったことか認められ」るところ、Yらの飼犬の鳴き声は、「近隣の者にとって受忍限度を超えたものであると認めることかできる」。

・「住宅地において犬を飼育する以上、その飼主としては、犬の鳴き方が異常なものとなって近隣の者に迷惑を及ぼさないよう常に飼犬愛情を持って接し、規則正しく食事を与え、散歩に連れ出し運動不足にしない、日常生活におけるしつけをし、場合によっては訓練士をつける等の飼育上の注意義務を負うというべきであるところ、Yらの飼犬が一項で認定したような異常な鳴き方をしている事実からすると、Yらは、右の注意義務を怠ったものといわざるをえない」から、「Yらは、犬飼育上の注意義務に違反したものとして、Xらの被った損害を賠償すべきこととなる」

・X1X2がYらの飼犬の鳴き声によって精神的苦痛を被ったことが認められるが、その慰謝料額は、本件に現れた全事情、とりわけ、飼犬の鳴いている時間帯及び長さ、Yらが現在は犬小屋に防音設備を施したこと、犬の鳴き声というより近所づきあいのなさという人間対人間の問題が根本にあると考えられること等を考慮すると、各30万円とするのが相当である。

と判示し、X1X2について、各30万円の慰謝料を肯定した(なお、本判決は、X1の息子X3が、上記共同住宅の一室を賃貸に出していたところ、賃借人が、Yらの飼犬の鳴き声が原因で契約期間満了前に退去したことに関して、X3が実際に被った賃料差額についても、賠償を命じている。)。

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