ペットと法⑥ー獣医師の義務

弁護士野田俊之

今回は、ペットとともに生活していく中で重要な役割を果たしている獣医師の義務について、ご紹介したいと思います。

 

1 応召義務

 

獣医師は、医師や歯科医師と同様に、応召義務を負っています(獣医師法19条1項、医師法19条1項、歯科医師法19条1項参照)。つまり、「診療を業務とする獣医師は、診療を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。」と規定されているため、正当な理由がなければ、診療を拒否することはできません。

 

そして、どういった場合に、「正当な理由」が認められるかという点については、医師の応召義務に関する行政通達や裁判例が参考になります。

まず、厚生省医務局長による通達(昭和24年9月10日医発第752号「病院診療所の診療に関する件」)においては、

「何が正当な事由であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきであるが、今ここに一、二例をあげてみると、

(一) 医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。

(二) 診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。

(三) 特定人例えば特定の場所に勤務する人々のみの診療に従事する医師又は歯科医師であっても、緊急の治療を要する患者がある場合において、その近辺に他の診療に従事する医師又は歯科医師がいない場合には、やはり診療の求めに応じなければならない。

(四) 天候の不良等も、事実上往診の不可能な場合を除いては「正当の事由」には該当しない。

(五) 医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合も、患者がこれを了承する場合は一応正当の理由と認め得るが、了承しないで依然診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。」

と規定されており、医療費の不払い、時間外、特定の場所に勤務する者のみの診療に従事する医師であること、天候の不良、専門外の疾病などは、診療を拒絶することのできる「正当な理由」には該当しないとされております。

 

また、千葉地判昭和61年7月25日判タ63号196頁は、病院がベッド満床を理由に患者の収容を拒否したところ、他の病院への転送後に、患者が死亡したという事案について、

「診療拒否が認められる「正当な事由」とは、原則として医師の不在または病気等により事実上診療が不可能である場合を指すが、診療を求める患者の病状、診療を求められた医師または病院の人的・物的能力、代替医療施設の存否等の具体的事情によっては、ベット満床も右正当事由にあたると解せられる。」

と判示しています。

 

以上の医師法に関する解釈等を参考にすると、獣医師が診療を拒絶することができる「正当な理由」についても、基本的には、獣医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能である場合を指し、具体的には、①診察を求める患者(ペット)の病状(当該獣医師において直ちに診察すべき緊急性の程度)、②獣医師側の物的・人的設備状況、③代替医療機関における診療の可能性などの事情から総合的に判断することになると考えられます(加藤良夫編「実務医事法講義」92頁以下参照)。

 

2 善管注意義務

 

ペットの飼主が、獣医師に対して、ペットの病気の診察や治療を依頼する場合、法的には、獣医師と飼主との間では、ペットの診療を内容とする診療契約が締結されたこととなります。

そして、この診療契約については、飼主が獣医師に対して、ペットの疾病の診察や治療等の医療行為を委託し、獣医師が自らの専門的見地から医療行為を施す一方、飼主がこの獣医師による医療行為の対価として診療報酬を支払うこととなりますので、民法上の準委任契約(民法656)に該当するものと解されております(通説)。

そのため、獣医師は、この診療契約に基づいて、善良な管理者の注意義務をもって、医療行為を行う義務(いわゆる善管注意義務)を負うこととなります(民法644条)。

 

この善管注意義務の内容についても、医師が医療行為を行う際に負っている善管注意義務についての裁判例の判断枠組みを参考にすることができます。

つまり、最判昭和57年3月30日判タ468・76(いわゆる日赤高山病院事件)は、

「人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるが、右注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」

と判示しております。

したがって、善管注意義務に違反したか否かについては、学問水準としての「医学水準」を基準とするのではなく、診療行為時点で、実践医療の現場において妥当している技術準則を基準として判断されることとなります。そのため、実際に、獣医師が善管注意義務を尽くしたか否かを判断するにあたっては、ペットに関するカルテ等の資料を入手して、獣医師が、どのような状況の下で、どのような治療を行ったかを確認した上で、獣医学に関する文献や獣医師による意見などの専門的知識を踏まえ、当該治療行為が適切なものであったかを検討していくこととなります。

 

3 説明義務

 

さらに、医師が、患者に対して、これから行う医療行為について説明し、患者がこれを納得して同意した上で、医療行為を進めていくというインフォームド・コンセントの考え方に基づいて、患者の病状等について説明義務を負うと解されているのと同様に、獣医師についても、飼主に対して、飼主がペットに治療を受けさせるのか、どのような治療を受けさせるのかといった判断をする前提として、ペットの病状等について説明義務を負うと考えられています。

 

過去の裁判例においても、名古屋高裁金沢支判平成17年5月30日判タ1217・294は、飼主が獣医師に依頼して飼犬の治療を依頼し、獣医師による治療を受けたものの、死亡したという事案において、飼主が、獣医師に対し、飼犬の症状、手術による回復の見込み、手術により生ずる危険、手術を施行しない場合に予想される結果等について説明すべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠ったと主張したのに対して、

・「ペットは、財産権の客体というにとどまらず、飼い主の愛玩の対象となるものであるから、そのようなペットの治療契約を獣医師との間で締結する飼い主は、当該ペットにいかなる治療を受けさせるかにつき自己決定権を有するというべきであり、これを獣医師からみれば、飼い主がいかなる治療を選択するかにつき必要な情報を提供すべき義務があるというべきである。」

・「説明義務として要求される説明の範囲は、飼い主がペットに当該治療方法を受けさせるか否かにつき熟慮し、決断することを援助するに足りるものでなければならず、具体的には、当該疾患の診断(病名、病状)、実施予定の治療方法の内容、その治療に伴う危険性、他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失、予後などに及ぶものというべきである。」

と判示しています(具体的な事案については、獣医師による治療義務違反・説明義務違反を認定した上で、治療費7万円、慰謝料30万円等の損害賠償を肯定しました。)。

 

したがって、獣医師がペットに対する診療行為を行うにあたっては、飼主に対して、ペットの病名・病状、実施予定の治療方法の内容、その治療に伴う危険性、他の選択可能な治療方法があればその内容とメリット・デメリット、予後などについて、説明を行う必要があると考えられます

弁護士野田俊之のその他のコラム

一覧で見る