ペットと法⑦ーペットの売買

弁護士野田俊之

ペットを飼われる場合、ペットショップやブリーダーの方から、ペットを購入されるというのが一般的な方法になると思われますが、今回は、ペットの売買について問題となる論点について、解説させていただきます。

 

1 ペット販売に対する規制

 

(1)登録制

 

まず、現在の日本においては、ペットの販売を行う業者については、「第一種動物取扱業者」として、都道府県知事又は政令指定都市の市長の登録を受ける必要があります(動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「法」といいます。)第10条1項)。

 

そして、第一種動物取扱業者は、その事業所ごとに、公衆の見やすい場所に、氏名又は名称、登録番号その他の環境省令で定める事項を記載した標識を掲示しなければならないこととされています(法第18条)。

 

(2)対面販売

 

また、法第21条の4により、第一種動物取扱業者のうち、犬や猫などの環境省令で定める動物の販売業を営む者が、ペットを販売する場合には、直接、買主と対面して、買主が購入を希望するペットの現在の状態を見せた上で、ペットの飼育方法などの環境省令で定める情報を提供しなければならないことと規定されております。

そのため、現在の日本では、ペットの販売を行う業者がペットを販売するには、必ず対面販売をしなければなりません。

 

なお、法第21条の4においては、「対面によることが困難な場合として環境省令で定める場合には、対面に相当する方法として環境省令で定めるものを含む」と規定されておりますが、現時点では、対面に相当する方法を定めた環境省令は存在しませんので、ペットの販売方法については、対面販売のみに限られることとなります。

 

■根拠法令

・法第21条の4

第一種動物取扱業者のうち犬、猫その他の環境省令で定める動物の販売を業として営む者は、当該動物を販売する場合には、あらかじめ、当該動物を購入しようとする者(第一種動物取扱業者を除く。)に対し、当該販売に係る動物の現在の状態を直接見せるとともに、対面(対面によることが困難な場合として環境省令で定める場合には、対面に相当する方法として環境省令で定めるものを含む。)により書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を用いて当該動物の飼養又は保管の方法、生年月日、当該動物に係る繁殖を行つた者の氏名その他の適正な飼養又は保管のために必要な情報として環境省令で定めるものを提供しなければならない。」

 

そして、ペットの販売業者は、ペットの売買契約を締結するにあたっては、ペットの購入を希望する買主に対して、ペットの飼養又は保管の方法、生年月日、ペットの繁殖を行った者の氏名(法第21条の4)や、性成熟時の体の大きさ、平均寿命、飼養施設の構造及び規模、適切な給餌及び給水の方法などの同法施行規則第8条の2第2項に定める情報を提供しなければなりません。

 

■根拠法令

・法施行規則第8条の2第2項

法第二十一条の四の適正な飼養又は保管のために必要な情報として環境省令で定めるものは、次に掲げる事項とする。

一 品種等の名称

二 性成熟時の標準体重、標準体長その他の体の大きさに係る情報

三 平均寿命その他の飼養期間に係る情報

四 飼養又は保管に適した飼養施設の構造及び規模

五 適切な給餌及び給水の方法

六 適切な運動及び休養の方法

七 主な人と動物の共通感染症その他の当該動物がかかるおそれの高い疾病の種類及びその予防方法

八 不妊又は去勢の措置の方法及びその費用(哺乳類に属する動物に限る。)

九 前号に掲げるもののほかみだりな繁殖を制限するための措置(不妊又は去勢の措置を不可逆的な方法により実施している場合を除く。)

十 遺棄の禁止その他当該動物に係る関係法令の規定による規制の内容

十一 性別の判定結果

十二 生年月日(輸入等をされた動物であって、生年月日が明らかでない場合にあっては、推定される生年月日及び輸入年月日等)

十三 不妊又は去勢の措置の実施状況(哺乳類に属する動物に限る。)

十四 繁殖を行った者の氏名又は名称及び登録番号又は所在地(輸入された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を輸出した者の氏名又は名称及び所在地、譲渡された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を譲渡した者の氏名又は名称及び所在地)

十五 所有者の氏名(自己の所有しない動物を販売しようとする場合に限る。)

十六 当該動物の病歴、ワクチンの接種状況等

十七 当該動物の親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況(哺乳類に属する動物に限り、かつ、関係者からの聴取り等によっても知ることが困難であるものを除く。)

十八 前各号に掲げるもののほか、当該動物の適正な飼養又は保管に必要な事項

 

2 売買契約に伴うトラブルについて

 

上記で説明した情報の提供を受けて、ペットを購入することとなった場合、ペット販売業者との間で、売買契約を締結することとなります(なお、法律上、売買契約は、口頭でも成立しますが、後々のトラブルを避けるためにも、契約書を作成しておくのが望ましいでしょう)。

 

このとき、購入したペットが先天性の病気に罹患していたり、障害を有していたなどの何らかのトラブルが発生した場合、買主としては、ペット販売業者に対して、①ペットを返還するとともに、売買代金を返金してもらう、②買主に生じた損害(上記の例でいえば、病気の治療のための治療費や介護費等が考えられます。)の損害賠償を請求するなどの対応を取ることが考えられます。

 

そして、まず、①ペットを返還するとともに、売買代金の返金を求めるためには、買主としては、契約の効力を否定する旨の主張を展開していくこととなりますが、その具体的な根拠としては、錯誤を理由とする無効(民法第95条)、詐欺を理由とする取消(民法第96条)、債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく契約解除(民法第541条、第570条)、消費者契約法に基づく取消(4条1項1号)などが考えられます。

このうち、消費者契約法に基づく取消については、販売業者が、契約締結に際して、重要事項(ペットが病気に罹患しているか、障害を有しているかといった点は、当然、重要事項に当たると思われます。)について事実と異なることを告げたことにより、買主が販売業者の説明した事実が真実であると誤認した場合に、売買契約を取り消すことができるというものですが、ペットの売買契約においては、上述の通り、ペットの病歴等についての情報を提供する義務が課されておりますので(法施行規則第8条の2第2項第16号・第17号)、ペットの購入後に、先天性の病気に罹患していたり、障害を有しているなどの事情が発覚した場合には、消費者契約法に基づく取消しが認められる余地は十分あると思われます。

 

他方で、②ペット販売業者に対する損害賠償責任を追及する場合には、債務不履行責任又は瑕疵担保責任を根拠に、買主に生じた損害の賠償を求めていくこととなります(民法第415条、第570条:566条)。

 

なお、この点については、従来、問題となったペットの売買契約が特定物売買か不特定物売買かという整理の下で論じられてきたところですので、簡単に付言しておきます(もっとも、これらの議論については、今般の債権法改正により整理されるところであり、かつ、専門的な内容となりますので、読み飛ばしていただいて問題ありません。)。

 

つまり、従前の民法の解釈においては、売買契約の対象となったペットが特定物であるか(すなわち、買主が、「この豆柴がほしい」というように、特定の個体を購入することを希望していたか)、不特定物であるか(すなわち、買主が、「雄の豆柴がほしい」というように、特定の個体ではなく、ある種類のペットを購入することを希望していたか)によって、ペット販売業者に対する請求の根拠やその内容が異なるという解釈が採られていました。そして、前者の特定物売買の場合には、買主は、瑕疵担保責任に基づいて、契約解除又は信頼利益の損害賠償を求めることができるにとどまり、後者の不特定物売買の場合には、買主は、債務不履行を根拠として契約解除又は履行利益の損害賠償を求めることができると解されておりました。

 

しかしながら、平成29年5月6日に成立し、令和2年(2020年)4月1日から施行される改正民法においては、上述の瑕疵担保責任について、売主が契約の目的に適合しないものを引き渡したときは、買主は、契約不適合責任として、目的物の修補や代替物の引き渡しなどの履行の追完の請求、損害賠償請求、契約解除、代金減額請求ができるという規定に整理され(新民法第562条~第564条)、売買契約の目的物が特定物か不特定物かにかかわらず、履行の追完の請求等ができることとなりました。

また、債務不履行責任についても、売買契約の目的物が特定物か不特定物かにかかわらず、販売業者が債務の本旨に従った履行をしないときには、それによって生じた損害の賠償を請求することができることと整理されました(新民法第415条1項、第564条)。

 

したがいまして、新民法の施行後は、これらの新しい規定に基づいて、ペット販売業者に対する請求を行っていくことになります。

 

 

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