ペットと法⑧ー動物愛護法改正について

弁護士野田俊之

報道されている通り、令和元年6月12日、動物の愛護及び管理に関する法律(いわゆる動物愛護法)の改正法案が成立しました。

 

今回は、この動物愛護法の改正について、紹介いたします。

 

1 今回の改正のポイント

 

今回の改正のポイントは、以下の5点に整理することができます(衆議院HP掲載の「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」参照)。

 

Ⅰ 動物の所有者等の責務規定の拡充

Ⅱ 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等

Ⅲ 動物の適正飼養のための規制の強化

Ⅳ 都道府県等の措置等の拡充

Ⅴ マイクロチップの装着等

 

特に、

■動物虐待等に対する罰則の厳罰化(Ⅲ)

■犬猫の繁殖業者等に対するマイクロチップの装着義務化(Ⅴ)

■出生後56日(8週)を経過しない犬猫の販売規制(いわゆる8週齢規制)(Ⅱ)

などの改正は、今回の改正の目玉として報道でも強調されている通りです。

 

なお、それぞれの改正の施行日については、原則として公布の日から1年以内ですが、Ⅱのうちの幼齢の犬又は猫の販売規制については公布の日から2年以内、Ⅴのマイクロチップの装着義務については公布の日から3年以内となっています。

 

以下、それぞれの改正について、簡単に紹介いたします。

 

2 動物の所有者等の責務規定の拡充

 

旧法においても、動物の所有者又は占有者に対しては、「命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努め」ることとされておりました(旧法7条1項)。

 

今回の改正においては、動物の所有者又は占有者は、上記の努力義務に加えて、環境大臣が法7条7項に基づいて動物の飼養及び保管に関する基準を定めた場合には、当該基準を遵守すべきことが規定されました(新法7条1項後段)。

 

3 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等

 

今回の改正により、動物の販売等を営利目的で業として行う第一種動物取扱業に対して、以下の規制が設けられました。

 

(1)登録拒否事由の追加

(2)遵守すべき基準の具体化

(3)犬猫の販売場所の限定等

(4)出生後56日(8週)を経過しない犬又は猫の販売等の制限

 

以下、それぞれの内容について、簡単に紹介いたします。

 

(1)登録拒否事由の追加

 

動物の販売等の事業を営むにあたっては、都道府県知事の登録を受ける必要がありますが(法10条)、今回の改正により、以下の事由が登録拒否事由として追加されました(新法12条1項5の2号以下)。

①禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者

②種の保存法、鳥獣保護法等の動物保護関連法の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者

③暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者

④第一種動物取扱業に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

⑤環境省令で定める使用人のうちに登録拒否事由に該当する者のある者

 

 

(2)遵守すべき基準の具体化

 

旧法21条1項により、第1種動物取扱業者は、環境省令で定める基準を遵守すべき義務を負っているところ、今回の改正により、この基準について、飼養施設の管理、飼養施設に備える設備の構造及び規模並びに当該設備の管理に関する事項等について定めることとされました(新法21条2項)。

 

 

(3)犬猫の販売場所の限定等

 

旧法21条の4により、第一種動物取扱業者のうち犬猫の販売業を営む者は、買主と対面して、買主が購入を希望する動物の現在の状態を見せた上で、販売しなければならないこととされていますが(拙稿「ペットと法⑦―ペットの売買」参照)、今回の改正により、この対面販売を行う場所を、当該第一種動物取扱業者の事業所に限定することとされました(新法21条の4)。

 

なお、以上の他、第一種動物取扱業者のうち動物の販売、貸出し、展示等を業として営む者に対する動物に関する帳簿の備付け等の義務などが規定されました(新法21条の5)。

 

 

(4)出生後56日(8週)を経過しない犬又は猫の販売等の制限

 

今回の改正により、8週齢規制が導入されたとの報道がなされておりますが、この点については、実は、既に平成24年の動物愛護法改正により、犬猫等販売業者のうち、販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者については、「その繁殖を行つた犬又は猫であつて出生後56日を経過しないものについて、販売のため又は販売の用に供するために引渡し又は展示をしてはならない」と規定されていました(法22条の5)。

しかしながら、平成24年改正法の附則7条により、法22条の5の「56日」について、平成28年8月31日までは「45日」、同年9月1日から「別に法律で定める日」まで「49日」と読み替えるという経過措置が設けられたことから、今回の改正までは、出生後49日を経過した犬猫であれば、販売することが可能となっていました。

 

今回の改正により、上記の附則7条が削除されたことで、改正法の施行後は、条文の規定通り、8週齢規制が実施されることとなります。

 

もっとも、今回の改正法の附則において、文化財保護法の規定により天然記念物として指定された犬の繁殖を行う犬猫等販売業者については、法22条の5の適用に関して、8週齢規制が適用されずに、 49日とするとの規定が設けられたため、柴犬・紀州犬・秋田犬等の日本犬については、従前どおり、出生後49日を経過した幼犬を販売することが可能となります。

この点については、日本犬保存会や秋田犬保存会からの要望を受けて、日本犬について8週齢規制の適用が除外されることとなったとの報道がなされているところですが、そもそも、8週齢規制については、幼齢期に親・兄弟などから引き離して犬猫を飼養することで十分な社会化が行われずに、成長後に、噛み癖などの問題行動を引き起こす可能性が高まるとされていることから、幼齢の犬猫の販売を規制するというのがその趣旨ですので、日本犬に限って、このような例外を設けることが合理的かについては疑問があるところです。

 

4 動物の適正飼養のための規制の強化

 

今回の改正においては、動物の適正飼養のため、新たに以下の規定が設けられました。

 

(1)都道府県知事の権限強化

(2)特定動物に関する規制の強化

(3)犬及び猫の繁殖防止の義務化

(4)動物虐待に対する罰則の引き上げ

 

以下、それぞれの内容について、簡単にご紹介いたします。

 

(1)都道府県知事の権限強化

 

旧法下においては、都道府県知事は、多頭飼育により、騒音又は悪臭の発生や虐待のおそれなどの事態が生じている場合、飼い主に対し、勧告・命令をすることができることされていました(旧法25条1項~3項)。

 

今回の改正により、都道府県知事は、多頭飼育の場合に限らず、動物の飼養・保管により周辺の生活環境が損なわれている事態が生じている場合や、不適正な飼養・保管により虐待のおそれがある事態が生じている場合に、飼い主に対し、必要な指導・助言・勧告を行うことができることとされました(新法25条1項~4項)。さらに、都道府県知事は、これらの事態が生じている場合、飼い主に対し、報告の徴求・立入検査を実施することができることとされました(新法25条5項)。

 

 

(2)特定動物に関する規制の強化

 

旧法下においては、特定動物(人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定められるものであり、トラ、ワニ、カミツキガメなどの約650種が対象となります)についても、都道府県知事の許可を受けることにより、飼養・保管をすることができることとされておりました(旧法26条)。

 

しかしながら、今回の改正により、特定動物(特定動物が交雑したことにより生じたものも含まれます)については、愛玩目的での飼養・保管が禁止され、動物園での展示等の目的に限り飼養・保管が許可されることとなりました(新法25条の2・26条)。

 

 

(3)犬及び猫の繁殖防止の義務化

 

旧法においても、犬又は猫の所有者は、犬又は猫がみだりに繁殖することのないように、生殖を不能にする手術等の措置をする努力義務が課されておりましたが(旧法37条1項)、今回の改正により、犬又は猫の所有者は、繁殖防止の措置をとる義務を負うこととなりました(新法37条1項)。

 

 

(4)動物虐待に対する罰則の引き上げ

 

今回の改正により、

■動物殺傷罪の法定刑が、「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」→「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」

■動物虐待罪・動物遺棄罪の法定刑が、「100万円以下の罰金」→「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」

に改正され、動物虐待に対する罰則が厳罰化されました(新法44条1項ないし3項)。

 

なお、動物虐待罪に該当する行為については、①身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、あるいは、そのおそれのある行為をさせること、②えさや水を与えずに衰弱させること、③酷使して衰弱させること、④健康や安全を保持することが困難な場所に拘束して衰弱させること、⑤飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養・保管して衰弱させること、⑥自己が飼養・保管する動物で、病気にかかり、あるいは、負傷したものの適切な保護を行わないこと、⑦排せつ物の堆積した施設や他の動物の死体が放置された施設で飼養・保管すること、⑧その他の虐待と整理されています(新法44条2項)

 

5 都道府県等の措置等の拡充

 

今回の改正により、

■旧法35条3項に規定されていた所有者不明の犬又は猫の引取りに関して、都道府県等は、周辺の生活環境が損なわれている事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の引取りを求める相当の事由がないと認められる場合には、その引取りを拒否することができること(新法35条3項)

■都道府県等は、動物の愛護及び管理に関する事務を所掌する部局又は都道府県等が設置する施設において、「動物愛護管理センター」として、第一種動物取扱業者の登録や監督、動物の飼養・保管に関する指導等の業務を行うこと(新法37条の2以下)

■都道府県等に対する動物愛護管理担当職員の設置義務化、指定都市及び中核市以外の市町村に対する動物愛護管理担当職員の設置努力義務化(新法37条の3)

など都道府県等の措置の拡充が行われています。

 

6 マイクロチップの装着等

 

今回の改正により、マイクロチップの装着に関して、

■犬猫等販売業者については、犬又は猫を取得したときは、取得日から30日以内に、マイクロチップを装着し、環境大臣の登録を受けなければならないこと(新法39条の2第1項、新法39条の5第1項)、

■犬猫等販売業者以外の一般の犬又は猫の所有者については、犬又は猫にマイクロチップを装着するよう努めること(新法39条の2第2項)

が定められました。

 

そもそも、犬又は猫に装着しているマイクロチップというのは、直径約1~2mm、長さ約8~12mmの円筒形のガラス又はポリマーのカプセルで包まれた小さな電子標識器具で、それぞれのチップには、世界で唯一の個体識別番号が登録されています。そして、動物に装着したマイクロチップから発信される電波を通じて個体識別番号を読み取ることで、当該動物の所有者を特定することができます(公益社団法人日本獣医師会HP参照)。

そのため、動物にマイクロチップを装着することにより、迷子や災害などにより動物と離れ離れになってしまった場合でも、マイクロチップに登録された個体識別番号を読み取ることで、当該動物の飼い主を特定して飼い主の元に返還することが期待できます。また、我が国においては、1年につき10万近くの犬又は猫が行政に引き取られているところ、このうち所有者不明の犬又は猫が80%以上を占めるという現状に鑑みますと(環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」参照)、犬猫の繁殖業者や飼い主がマイクロチップを装着することにより、行政に収容された犬又は猫を所有者の元に返還することができれば、結果として、殺処分を減らすことにも繋がります。

 

今回の改正により、犬猫等販売業者にマイクロチップの装着義務が課されたことにより、今後、マイクロチップが普及していくことが期待できます。

他方で、現在、犬又は猫を飼養されている一般の飼い主については、マイクロチップの装着は努力義務にとどまることとされましたが、万一、災害等でご自身のペットと離れ離れになった場合、ペットと再会することは難しいという現状を踏まえ、マイクロチップを装着することを前向きにご検討いただければと願っています(実際の方法については、動物病院等において、獣医師により、数千円から1万円程度の費用で、装着してもらうことができるようです(上記日本獣医師会HP参照))。

 

7 その他

 

以上の改正に加えて、動物虐待に関する獣医師による通報義務について、努力義務だったものが義務化される(新法41条の2)などの改正が行われています。

 

また、今回の改正においては、動物の殺処分に関して、環境大臣が殺処分に関する必要な事項を定めるにあたり、国際的動向に十分配慮するよう努めなければならないこととされました(新法40条3項)。

現在の動物愛護法においては、動物の殺処分を行う際には、「できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。」と定められているところ(40条1項)、現在、日本の多くの自治体においては、炭酸ガスによる方法が採用されております。

この点、世界動物保護協会が平成19年に発表したガイドライン「犬猫の安楽死のための方法」においては、具体的な殺処分の方法の推奨レベルが、「推奨(Recommended)」、「許容(Acceptable)」、「条件付き許容(Conditionally Acceptable)」、「許容できない(Not Acceptable)」の4段階に分けられているところ、炭酸ガスによる方法は、感電、絞首、溺死等と並んで「許容できない」というレベルに分類されています(東京弁護士会公害・環境特別委員会編「動物愛護法入門」(民事法研究会)19頁以下参照)。

 

動物の殺処分に関しては、それを無くすことが最も望ましいことは言うまでもありませんが、今回の改正を契機として、やむを得ず殺処分を行う場合であっても、できる限り苦痛を与えない方法によってなされるようになることを願っています。

 

 

以上の通り、今回の動物愛護法の改正により、動物虐待罪の厳罰化、マイクロチップの装着義務化や8週齢規制などの改正が実現したことは、人と動物の共生する社会の実現に向けた一歩と言えると思います。他方で、動物愛護団体が求めていた実験動物の取扱いに対する規制等については、今後の検討課題として見送られることとなりました。引き続き、動物愛護団体のみならず、国民一人ひとりが動物福祉に関する問題に関心を持ち続けることを通じて、より良い社会の実現に繋がればと思います。

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