中国法務の小窓(第3回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国の目指す社会主義国家はどんな国?―中国の国家機構~行政組織②」

弁護士 武田雄司

中国法務の小窓(第3回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国の目指す社会主義国家はどんな国?―中国の国家機構~行政組織②」

弁護士 武田雄司

 

恐ろしいことに、早いもので、もう年末ですね…

 

前回は、中国憲法の基本原理として紹介した、①人民民主主義独裁、②社会主義国家、③民主集中制の内、①の話で終わっていましたので、今回は②社会主義国家について書きたいと思います。

 

 

1.2 ②社会主義国家

 

社会主義という言葉は、誰が、どのような目的で使用するかによって意味・内容が異なることから、ここでは、憲法前文に登場する「中国的特色の社会主義」(※)に注意しつつ、中国が建設を目指す社会主義国家の具体的内容について見ていきたいと思います。

 

※中国憲法前文:「我が国は、長期にわたり社会主義初級段階にある。国の根本的任務は、中国的特色の社会主義という道に沿って、力を集中して社会主義現代化の建設をすることにある。」

 

と、自らお題を設定したものの、実は、結論として、中国憲法上、中国が目指す社会主義国家の具体的内容は、よくわかりませんでした(+考える意義はなさそうなので、考えることをやめました。)。

 

以上。では次回をお楽しみに。

 

 

と、ここで終わると、さすがに所内での痛い視線に耐えられないので、以下、自らの備忘の意味も込めて、考えたことを整理しておきたいと思います。

 

 

1.2.1 「社会主義」の定義はないこと

 

中国憲法上、「社会主義」に関する主たる条文は次のとおりですが、「社会主義」そのものについて定義をした条文は見当たりません。

 

「社会主義」そのものの定義はないのに、「社会主義」の破壊に対しては刑罰が予定されている点(実際に刑法第105条では首謀者等に最高刑が無期懲役の構成要件が定められています。)や、「資本主義」が「腐敗思想」の一つとされている点は、個人的感想としては、改めて驚かされる点だったことはさておき、規定の中心は、経済体制に関する規定です。

 

社会主義経済体制のメルクマールの1つであった計画経済は、1993年憲法改正までは条文に明記されていたものの、その後見事に全て削除され、現在の条文では、「社会主義の市場経済」の実施が謳われている点が最大の特徴といえるでしょう。

 

■①~③⇒根本制度に関する規定

■④~⑨、⑫、⑬⇒経済体制に関する規定

■⑩、⑪⇒財産に関する規定

■⑭~⑰⇒教育・文化等に関する規定

■⑱⇒刑罰による保護規定

■⑲⇒労働に関する規定

 

①第1条第2項:「社会主義制度は、中華人民共和国の基本となる制度である。いかなる組織又は個人による社会主義制度の破壊も、これを禁止する。」

 

②第5条第1項「中華人民共和国は、法による治国を実行し、社会主義的法治国家を建設する。」

 

③第5条第2項「国家は、社会主義法制の統一と尊厳を守る。」

 

④第6条第1項「中華人民共和国の社会主義経済制度の基礎は、生産手段の社会主義的公有制、すなわち全人民所有制及び勤労大衆による集団的所有制である。社会主義的公有制は、人が人を搾取する制度を消滅させ、各人がその能力を尽くし、労働に応じて分配するという原則を実施する。」

 

⑤第6条第2項「国家は、社会主義初級段階において、公有制を主体とし、多種の所有制経済が共に発展するという基本的経済制度を堅持し、労働に応じた分配を主体とし、多種の分配方式が共存するという分配制度を堅持する。」

 

⑥第7条「国有経済、すなわち社会主義の全人民的所有制経済は、国民経済の中の主導的な力である。国家は、国有経済の強化及び発展を保障する。」

 

⑦第8条第1項第2文「農村の生産、供給販売、信用及び消費等の各種形式の協同組合経済は、社会主義勤労大衆の集団所有制経済である。」

 

⑧第8条第2項「都市・鎮の手工業、工業、建築業、運輸業、商業、サービス業等の各業種における各種形態の協同組合経済は、いずれも社会主義勤労大衆の集団的所有制経済である。」

 

⑨第11条第1項「法律に規定する範囲内の個人経済及び私営経済等の非公有制経済は、社会主義市場経済の重要な構成部分である。」

 

⑩第12条第1項・第2項「社会主義の公共財産は、神聖不可侵である。」、「国家は、社会主義の公共財産を保護する。いかなる組織又は個人であれ、国家及び集団の財産を侵奪し、又は破壊することは、その手段を問わず、これを禁止する。」

 

⑪第13条第1項「公民の適法な私有財産は、侵害を受けない。」

 

⑫第14条第1項「国家は、勤労者の積極性と技術水準の向上、先進的な科学技術の普及、経済管理体制と企業経営管理制度の改善及び各種形態の社会主義的責任制の実施並びに労働組織の改善を通じて、絶えず労働生産性と経済的効果を高め、社会的生産力を発展させる。」

 

⑬第15条第1項「国家は、社会主義の市場経済を実施する。」

 

⑭第19条第1項「国家は、社会主義の教育事業を振興して、全国人民の科学・文化水準を高める。」

 

⑮第22条第1項「国家は、人民に奉仕し、社会主義に奉仕する文学・芸術事業、新聞・ラジオ・テレビ事業、出版・発行事業、図書館・博物館・文化館その他の文化事業を振興して、大衆的文化活動を繰り広げる。」

 

⑯第23条「国家は、社会主義に奉仕する各種専門分野の人材を育成して、知識分子の隊列を拡大し、条件を整備して、社会主義的現代化建設における彼らの役割を十分に発揮させる。」

 

⑰第24条第1項・第2項「国家は、理想教育、道徳教育、文化教育及び規律・法制教育の普及を通じて、並びに都市と農村とを問わず諸分野の大衆の間で各種の守則と公約を制定し、実施することにより、社会主義的精神文明の建設を強化する。」「国家は、祖国を愛し、人民を愛し、労働を愛し、科学を愛し、社会主義を愛するという公徳を提唱し、人民の間で愛国主義、集団主義、国際主義及び共産主義の教育を進め、弁証法的唯物論及び史的唯物論の教育を行い、資本主義、封建主義その他の腐敗思想に反対する。」

 

⑱第28条「国家は、社会秩序を維持保護し、国家に対する反逆及び国の安全に危害を及ぼすその他の犯罪活動を鎮圧し、社会治安に危害を及ぼし、社会主義経済を破壊し、及びその他の罪を犯す活動を制裁し、犯罪分子を懲罰し、改造する。」

 

⑲第42条第3項「労働は、労働能力を持つすべての公民の光栄ある責務である。国有企業並びに都市及び農村の集団経済組織の勤労者は、みな国家の主人公としての態度をもって自己の労働に取り組むべきである。国家は、社会主義的労働競争を提唱し、労働模範と先進活動家を報奨する。国家は、公民が義務労働に従事することを提唱する。」

 

(憲法の条文は、キャストコンサルティング株式会社の法令データベース〔http://law.cast-china.biz/index.php?a=1〕から引用させていただきました。)

 

 

1.2.2 全国人民代表大会HPによる憲法の解説―「社会制度」の基礎は「経済制度」

 

「社会制度」そのものに対する中国の国家としての理解は、全国人民代表大会のHPの憲法の解説(http://www.npc.gov.cn/npc/flsyywd/xianfa/2010-04/14/content_1567082.htm)によれば、「社会制度」は、一定の社会形態の中で、社会経済、政治、文化等各制度の総和であり、その中でも、経済制度を基礎として、他の項目についても決定されるものと理解されています。

 

そして、「社会主義制度」とは、社会主義国家における経済、政治、文化及び社会等各制度の総和であって、各項目については次のとおり解説されています。

 

■経済…公有性を主体としつつ、多様な所有制経済を共同発展の基本とする経済制度とし、絶えず生産力を発展、開放し、社会主義物質文明の建設を強化すること。

 

■政治…人民代表大会制度の実行、中国共産党が指導する多党の協力及び協商政治制度並びに民族自治制度の堅持及び完全化を果たし、社会主義民主政治を全力で発展させ、法により国を治め、社会主義政治文明を建設すること。

 

■教育・文化等…マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論及び「3つの代表」の重要思想を指針として、中国の特色ある教育、科学、文化制度を実施し、社会主義精神文明の建設を全力で強化する。

 

このように、経済制度が社会制度の基礎であるとすると、経済制度の変化に応じて、社会制度の見直しもありうるように思えます。

 

特に、憲法第6条第1項で、「中華人民共和国の社会主義経済制度の基礎は、生産手段の社会主義的公有制、すなわち全人民所有制及び勤労大衆による集団的所有制である。」「社会主義的公有制」が「人が人を搾取する制度を消滅させ」たことを前提に、社会主義が成立したことを説明するとなると、尚更です。

 

しかし、中国の場合は、憲法で「社会主義国家」と宣言しているとおり、国家成立の過程から当然社会主義国家であって、この結論は、憲法が変更され、国家成立の歴史が変わらない限り変わることはないでしょう(と個人的には考えます。)。

 

 

1.2.3 中国が当然社会主義国家である背景とその結論

 

中国が憲法で「社会主義国家」と宣言する背景は、憲法前文にもあるとおり、中国の成立過程で生産手段私有制の社会主義的改造が達成され、搾取階級及び人が人を搾取する制度が消滅し、その結果として、社会主義制度が堅固に確立されたからに他なりません。

 

そのため、いまさら「搾取階級が復活しました!」といったことや、「実は搾取階級は消滅していませんでした…」とはさすがに言えず(結果的に革命が失敗したことを意味し、中国共産党の指導に問題があったことになってしまうので。)、経済制度がどうなろうとも、「中国は社会主義国家である」という命題は変えようがないものだと理解すれば、とりあえずは十分なのではないかという結論に至りました。

 

 

1.2.4 まとめ

 

以上から、中国憲法における「社会主義」という文言については、歴史上の産物であって、現在その意義を明らかにしたところで何らかの具体的結論が出てくるものではなく、そもそも、関連する条文上、その具体的意義はよくわかりません。

 

憲法の基本原理の一つに対するコラムとしては、びっくりする結論であり、どこからかお叱りをいただく虞のある内容であり恐縮ですが、本コラムの意義をあえて整理すると、

 

 

■本コラムの意義

 

中国関連の情報で、「社会主義的○○」と出てくるときには、「社会主義」という言葉に引っ張られることなく、「中国独特の○○」程度に読み替えておけば足りる。

 

ということになりますでしょうか。

 

本コラムのタイトルは「中国の目指す社会主義国家はどんな国」でしたが、結局その答えは、「中国独特の国家」ということになりますね。いやいや、これはこれは恐縮です…。

 

気を取り直して、次回は、③民主集中制について書きたいと思います。

 

 

1.2.5 おまけ

 

平成25年4月頃、ベトナム(正式名称「ベトナム社会主義共和国」)では、経済体制に合わせて、国名から「社会主義」という言葉を外し、独立直後の「ベトナム民主共和国」に戻してはどうかという問題が提起されている、ということがニュースになっていました(http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1400E_V10C13A4EB2000/)(ただ、結論としては、今年度の国会では改正しないという結論になったようです。)。

 

ベトナム法を専門にしている友人の弁護士に聞くと、ベトナムが社会主義国を謳っている背景等は中国に似ているということでしたが、国家名称の変更は、基本原理の変更や国家の主権の所在等の議論とは関係しないのか、本コラムを書いて少し知識がついた分、興味の視点が少し変わってきたところです。

以上

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