中国法務の小窓(第9回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国における裁判例の位置づけ」

弁護士 武田雄司

中国法務の小窓(第9回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国における裁判例の位置づけ」

 

弁護士 武田雄司

 

1.日本の状況

 

日本において、最高裁判所の裁判例は、国会で制定される法律やその委任を受けて制定される政令と同列の法源にはなりません。

 

しかしながら、「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」は大法廷で判断することが必要とされ(裁判所法10条3号)、同一事件について上級裁判所が下した判断は、「その事件について」下級裁判所を拘束する(裁判所法4条)とされており、ある判決が最高裁判所の判例と相反する判断をしたことや、最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑事訴訟法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたことは、刑事訴訟で上告理由となり(刑事訴訟法405条2号3号)、「原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について」は民事訴訟において上告受理申立理由となり(民事訴訟法318条1項)、また許可抗告事由(民訴法337条2項)とされており、最高裁判所の裁判例は、後の裁判所の判断に対し拘束力があるものと解釈されています。

 

2.中国の状況

 

2.1 法解釈統一に関する制度

 

中国の人民法院組織法、民事訴訟法、刑事訴訟法上、中国の裁判機関である人民法院の中でも、最高裁判機関と位置づけられている最高人民法院の裁判例に相反する判断をしたことを要件とする何らかの制度は見当たらず、この意味で、最高人民法院の裁判例には、日本の最高裁判所の裁判例のように後の裁判所の判断に対する拘束力は認められていないと考えられます。

 

もっとも、最高人民法院は、「裁判の過程で法律及び法令をいかに具体的に運用すべきかの問題について解釈を行う」(人民法院組織法33条)ことが予定され、かつ、当該解釈(=司法解釈)には法的効力が認められ(「司法解釈業務に関する最高人民法院の規定」5条〔2007年3月23日発布・法発[2007]12号〕)ることから、当該司法解釈によって法解釈の統一が図られており、実際に、数多くの最高人民法院による司法解釈が発布されています。

 

この意味で、日本の最高裁判所の裁判例の拘束力とは比較にならないレベルで、最高裁判機関による法解釈の統一が図られているといえるでしょう。

 

2.2 事例判断の統一の試み

 

法解釈の統一については、基本的には司法解釈により実現することが予定されているといえますが、2010年11月26日、「事例指導業務に関する最高人民法院の規定」が発布され(法発〔2010〕51号。同日施行。)、裁判経験の総括、法適用の統一等を目的として、全国の人民法院の判決を対象に、指導的役割を備える指導性案件を最高人民法院が収集、確定し、発布されることとなりました。

 

指導性案件とは以下の条件に符合する案件とされています(規定2条)。

①社会的に広範に注目されている案件

②比較的原則的な法律法規に関する案件

③典型的な案件

④難解かつ複雑又は新類型の案件

 

※実際には、2012年1月10日に4つの事例が指導性案件として最高人民法院のHP上で公表されており、本日(2017年5月31日)時点において、第87号の指導性案件まで公表されています。

 

そして、2015年6月2日には、「事例指導業務に関する最高人民法院の規定の実施細則」が発布され、下級審は、類似案件について、指導性案件を参照しなければならないと定められるに至り(実施細則9条)、事例判断としても、最高人民法院による統一がより強化されている状況にあります。

 

なお、実施細則14条では、各級の人民法院は、事例指導業務について突出した成績が認められる裁判官に対して奨励(すなわち、金一封を贈呈しますよ!ということです。)しなければならないと規定されており、こんなところにまでもアメとムチを使うのかというのが率直な感想であり、アメとムチの文化が根付いていることを感じさせてくれます。

 

次回以降、いくつか、具体的な指導性案件について紹介をしていきたいと思います。

 

以上

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