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医療法務の知恵袋(24)【社員が退社した場合の問題②】

医療法務の知恵袋(24)【社員が退社した場合の問題②】

 

Question

 

 

私が理事長を務める医療法人は,いわゆる経過措置型医療法人で出資持分のある医療法人です。

 

今般,当医療法人設立の段階から社員(出資額:金500万円)であったAさんが亡くなり,その遺産をBさんが相続したのですが,そのBさんから出資金返還請求を受けました。

 

当医療法人のその他の社員は,同じく500万円を出資した私のみです。

 

Bさんには,いくら支払えばよいのでしょうか。

 

 

1 出資金の返還は,当初出資した金額の範囲に限られる?

 

 

前回扱いました「医療法人で社員が退社した場合の問題」の2回目として,今回は,いわゆる出資持分のある医療法人において,社員(出資者)が退社するとともに,出資金の返還請求をした場合,果たしていくら請求できるのかという法的問題を考えます。

 

一般的に,出資持分のある医療法人においては,定款に,次のような決まり文句が定められています。

 

「社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」

 

問題は,「その出資額に応じて」という部分です。

 

 

議論を分かりやすくするため,ごく簡単な例をあげます。

 

例えば,ある医療法人Xを設立する際,Yさんが500万円,Zさんが500万円を出資し社員になったとします。

 

その後,ZさんがX法人を退社することとなり,そのためZさんは,Xに対し,出資金の払戻し請求をしたのですが,この時,X法人の財産評価額が,1億円となっていたとします。

 

この場合,Zさんは,退社当時の財産評価額を基準として,出資額(500万円)が全体に占める割合に相当する金銭の払戻し(具体的には,1億円×500万円/1000万円=5000万円)を請求できるのか,それとも,あくまでZさんが当初出資した金500万円の限度にとどまるのか,というのが,上記の「その出資額に応じて」の解釈として問題となります。

 

 

2 最高裁判所の判断について

 

 

この点については,最高裁判所の判決があります(最判平成22年4月8日判時2085・90)。

 

 

この最高裁判決は,1審が出資額に限定されない立場をとり,2審が反対に出資額に限定されるという立場をとった中,以下の通り,基本的には,1審と同様,出資額に限定されない立場をとりました。

 

㋐出資の払戻しを認める本件定款は,出資社員は,退社時に,同時点における医療法人の財産の評価額に,同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したもの,と解するのが相当である。

 

㋑ただし,当該出資金返還請求の額,当該医療法人のこれまでの財産の変動経緯とその過程において果たした退社社員らの役割,当該医療法人の公益性・公共性の観点等に照らして,例外的に当該出資金返還請求が権利の濫用に当たり許されないことがあり得る。

 

 

少々分かりにくいですが,結論としては,定款に,「その出資額に応じて」返還を請求することができる旨の記載がある場合,退社社員は,原則として,自己の出資額に限定されることなく出資金の返還を請求することができる(上記1の例でいえば,5000万円の請求をすることができる)とし,ただ例外的に,その請求が権利濫用にあたり認められない場合もあり得る,として,結論の妥当性を確保する工夫をしています。

 

 

3 まとめ

 

 

以上の通り,現在の裁判実務では,「その出資額に応じて」という定款である場合は,出資額に限定されることなく出資金の返還請求をすることが可能,という見解でほぼ固まったとみてよいと思われます。

 

あとは,最高裁判決のいう,権利濫用が認められる事例を集積して,その原則・例外の範囲をできるだけクリアにしていくことが重要といえるでしょう。

 

 

冒頭のQuestionでご紹介した事例ですが,もし定款に「社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」としか定めがなく,また退社時の医療法人の財産の評価額が1億円であったとすると,上記1でお話した通り,Bさんは,原則として,(500万円ではなく)5000万円を請求することができることとなります。

 

このような事態を避けたいと考える場合は,例えば,上記のような決まりきった定款の内容で終わらすのではなく,当初の出資金額に限られる旨の規定を定めておくことが考えられます。

 

また,このような退社社員の持分の払戻請求という問題自体を発生させないよう,前回の知恵袋でご紹介した「出資持分のない医療法人」に移行させるという方法も考えられます。

 

 

次回以降では,この出資持分のない医療法人において,社員が退社した場合の問題を取り上げたいと思います。

 

(弁護士 高橋健)

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