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医療法務の知恵袋(1)【医師の苦悩~医師は患者を選べない?~】

医療法務の知恵袋(1)【医師の苦悩~医師は患者を選べない?~】

医療法務の知恵袋① 【医師の苦悩~医師は患者を選べない?~】

 

 

 

Question

①   当病院にこれまで通院なさった患者さんで、過去の診療費が未払いであるにもかかわらず、診療を求めてくる方がいますが、応じなければなりませんか。

②   当病院の診療時間は、朝9時からでありますが、早朝に怪我をしたとして患者さんが診療を求めてきたとき、未だ看護師もおらず診療体制も整っていないにもかかわらず、応じなければなりませんか。

 

 

医療法務の知恵袋・第1回目は、お医者さんは、患者さんから診療を求められた場合、絶対に応じなければならないのか、いわゆる応召義務(診療義務)と呼ばれる問題です。

 

お医者さんと弁護士は、専門的な知識が必要なため免許制がとられている点や、人様の不幸に関わる仕事である点(弁護士については一概に不幸ばかりを扱うものではないようにも思いますが・・)など、共通点が少なくありません。

しかし、決定的な違いの1つとして、今回扱う応召義務があります。

 

「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(医師法19条1項)

 

平たくいえば、お医者さんは、患者さんから診療を求められた場合、基本的には、その求めに応じて診療してあげなければなりませんよ(拒否は認めません)、ということです。

 

このような義務は、弁護士にはありません。弁護士は、原則的に依頼者の方の利益実現のため誠心誠意尽くすのが仕事ですが、その根底には依頼者の方との信頼関係があります。ところが場合によっては、その信頼関係が築けず弁護士の側から依頼を拒まざるを得ない時があります。

 

そういった場面に遭遇する弁護士業務を日々行っている私の感覚からすると、この応召義務というのは、お医者さんにとってとても悩ましい問題を孕んでいるな、と感じずにはいられません。お医者さんの仕事も、患者さんの病気を治すことに誠心誠意尽くすことだと思いますが、やはりその根底には患者さんとの信頼関係があるのでしょう。そうなると、そういった信頼関係がどうしても築けない場合があるはずです(①医療費未払いの患者さんから診療を求められた場合など)。

 

さらに、②お医者さんの場合、未だ診療体制が整っていない早朝や深夜などに急病患者の方の対応に迫られるなど、1分1秒を争うような状況に置かれることもあるでしょう。そういった場合にも、診療を求められればお医者さんはそれに応じなければならないのでしょうか。

 

結論的には、信頼関係上問題となる①のケースでは、基本的に診療を拒むことができない(「正当な事由」に当たらない※1)、診療体制上問題となる②のケースでは、基本的に当該地域で休日夜間診療体制が敷かれており、その休日夜間診療所等で診療を受けるよう指示したうえであれば、自分の病院にて診療しなくても良い(「正当な事由」に当たる、又はそのような指示をしたのであれば、そもそも診療を「拒ん」だ場合に当たらない※2)と考えられています。

 

もっとも、①の場合であっても、これまで度重なる未払があり、また、患者さんの状態が重篤である等の事情がなければ、診療を拒む正当な事由がある、と考えることも十分可能なように思います。

 

つまり、「正当な事由」があるかどうかは、患者さん側の事情(重篤な状態か等)、医師病院側の事情(診療時間外か、専門外か等)、さらには当該地域医療の体制(休日夜間診療所の整備がされているか等)といった諸事情を考慮して、決められる事柄なのです。

 

とはいうものの、時間的猶予の乏しい医療現場において、上記のような諸事情を考慮して決めることは、中々難しいものです。昨今、救急医療現場での患者さんのたらい回し問題などでクローズアップされ、いわばお医者さんにとって呪縛のようになってきている応召義務。モンスターペイシェントと呼ばれるクレーマー患者の存在などにも目を向けると、極力「正当な事由」を明確化することで医療現場への委縮効果を取り除く必要があるでしょう(それが、ひいては国民全体が適切な医療を受けることに繋がります)。

 

そのためにも、この応召義務の沿革(元々は刑法に定められていたことからも明らかな通り、公法上の義務であること)や、応召義務を巡る通達や裁判例の分析等が必要であり、それらを踏まえて、各医療機関において、どのような場合に診療を拒むのか、仮に拒むのであれば、どのようにして拒むのか(どのようなフォローしてあげるのか、フォローの仕方によっては、そもそも診療を拒んだと評価されないこともあり得ます)、一定の基準を設ける必要があります。

 

とりあえず、今回はここまでとさせていただき、次回もまた何らかの医療法務(応召義務の続編の可能性あり)に関する豆知識を書かせていただこうと思います。

 

 

 

※1 昭和24年9月10日 医発第752号 厚生省医務局長通知

「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」

 

※2 昭和49年4月16日 医発第412号 厚生省医務局長通知

「休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第十九条第一項の規定に反しないものと解される。

ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応ずる義務がある。」

 

(弁護士 髙橋 健)

 

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