弁護士玄政和

韓国におけるパブリシティ権について

1 はじめに

 

日本では、パブリシティ権とは、芸能人や著名人の肖像等の有する顧客吸引力を排他的に利用する権利をいうとされています。明文の規定はないものの、最高裁の平成24年2月2日判決(いわゆるピンク・レディー事件)において明確に認められました。同判例では、肖像等を無断で使用する行為について「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となると解するのが相当である。」と判示しており、このような場合に該当する例として、以下の3つを挙げています。

①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合

③肖像等を商品等の広告として使用する場合

 

このようなパブリシティ権について、韓国においても、日本と同様、明文はないものの裁判例の蓄積によって認められています(ただし、大法院(日本における最高裁にあたるもの)の判例はまだないようです)。以下、韓国におけるパブリシティ権の内容、関連裁判例、関連する立法化の議論についてご紹介します。

 

2 韓国におけるパブリシティ権

 

韓国の裁判例では、パブリシティ権とは、「人が持つその氏名、肖像やその他の同一性を商業的に利用して統制することができる排他的権利」を指すとされています(ソウル東部地方法院2006. 12. 21.宣告2006가合6780判決)。

 

上記裁判例では、パブリシティ権についての我が国(※筆者注:韓国のこと)の法律に明文の規定はないが、大部分の国が法令や判例によりこれを認めている点、このような同一性を侵害することは民法上の不法行為に該当する点、社会の発達に応じて、このような権利を保護する必要性がますます増大している点、有名人が自らの努力によって獲得した名声、社会的な評価、知名度等から生じる独立した経済的利益や価値は、それ自体で保護する価値が十分ある点等に照らし、解釈上、これを独立の権利と認めることができるとしています。

 

ここで、同裁判例の判示において注目されるのは、これらのパブリシティ権は、有名人だけでなく、一定の場合、一般人にも認められるとされていることです。同裁判例は、一般人のパブリシティ権は、氏名、写真、肖像、その他、個人のイメージを形象化した場合に特定人を連想させるものなどに広く認められ得るし、パブリシティ権の対象が肖像の場合、肖像権中、財産権としての肖像権と同一の権利となるとしています。一般人に対してパブリシティ権を認めた裁判例については調査できていませんが、今後関連する裁判例が見つかりましたらご紹介させていただきます。

 

3 関連裁判例

 

前述の通り、韓国では、パブリシティ権を認めた大法院の判例はまだないものの、下級審裁判例では、パブリシティ権を認めた事例と否定した事例が存在します。以下、それぞれの事例を紹介します。

 

(1)否定例

 

パブリシティ権を否定した裁判例としてソウル高等法院2002.4.16.宣告2000나42061判決があります(ジェームス・ディーン標章使用禁止請求事件)。同事件は、米国の著名な俳優だったジェームズ・ディーンの相続人からジェームス・ディーンの氏名、肖像等に関する独占的ライセンスを内容とするパブリシティー権を譲り受けた者であるとする原告が、被告に対し、ジェームズ・ディーンの氏名が記載された標章を自社の製品や包装紙などに表示して衣類などの商品を製造、販売し、ジェームズ・ディーンの肖像と署名などを被告の店やインターネットサイトに掲載することにより、原告が保有しているパブリシティ権を侵害しているとして侵害行為の禁止及び侵害物の廃棄を求めた事件です。

 

ソウル高等法院は、以下の通り述べ、パブリシティ権に基づく原告の控訴を棄却しました。

「我が国でも近年に至って芸能、スポーツ産業及び広告産業の急激な発達により有名人の氏名や肖像等を広告に利用するようになったことにより、それに伴う紛争が少なからず起きているので、これを規律するために、いわゆるパブリシティ権(Right of Publicity)という新しい権利概念を認める必要性は首肯できるものの、成文法主義をとっている私たちの国で法律、条約等の実定法や確立された慣習法等の根拠なしに、必要性があるという事情だけで物権に類似した独占・排他的財産権であるパブリシティ権を認めることは困難であり、パブリシティ権の成立要件、譲渡・相続性、保護対象と存続期間、侵害がある場合の救済などを具体的に規定する法律的な根拠が設けられてこそ、ようやくパブリシティ権を認めることができるであろう。」

 

このように、当初、裁判例はパブリシティ権を認めることについて消極的な立場を取っていました。

 

(2)肯定例

 

上記裁判例以降、パブリシティー権を認める複数の裁判例が現れました(ソウル中央地方法院2005.9.27.宣告2004가単235324判決、ソウル地方法院1996.9. 6.宣告95가合72771判決、ソウル東部地方法院2006. 12. 21.宣告2006가合6780判決、ソウル中央地方法院2007.11.28宣告2007가合2393判決)があります。

これらの裁判例は、パブリシティ権について、概ね以下のような判断をしています。

・ 一般的に、パブリシティ権とは、人が持つその氏名、肖像やその他の同一性を商業的に利用して統制することができる排他的権利を意味し、これは、肖像などの経済的側面に関する権利という点では、人格権としての性格を持つ伝統的な意味の肖像権と区別されるところ、有名芸能人やスポーツ選手などの場合、自分の承諾なしに、自分の氏名や肖像等が商業的に使用されている場合、正当な使用契約を締結していれば得られたであろう経済的利益の剥奪という財産上の損害を被るという点で、このようなパブリシティ権を別の権利として認める必要がある。

・ 有名芸能人の承諾なしに彼の顔を形象化して一般人が容易に理解することができるキャラクターを製作した後、これを商業的に利用したことは、財産的価値がある自己の肖像と氏名等を商業的に利用できる権利である有名芸能人の肖像権を侵害したものであり、不法行為に該当する。

・ パブリシティ権の侵害による財産上の損害額は、被害者本人の承諾を受けて、その氏名や肖像などを正当に使用する場合に支給しなければならない対価額を基準としなければならない。

大法院の判例は存在しないものの、これらの裁判例により、韓国においても、実務上、パブリシティ権は明確に認められるに至っているといえます。

4 不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律の一部改正法律案の提出

 

2021年2月2日、イ・チョルギュ議員外12名により、不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律の一部改正法律案が提出されました(議案番号2107846)。同法律案は、翌日、国会の所管である産業通商資源中小ベンチャー企業委員会に回付され、審査が行われています。

 

提案内容は、有名人の肖像、氏名等に対する無断使用行為を別途の不正競争行為に明確に規定することで、公正な取引秩序を確立し、不当な被害から消費者を保護しようとするものであり、第2条第1号카目として、以下の規定を新設するものです。

「国内に広く認識されており、経済的価値を持つ他人の氏名、肖像、音声、署名等、その他人を識別することができる標識を公平な商取引の慣行や競争秩序に反する方法で自分の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為」

 

提案理由として、以下のような理由が挙げられています。パブリシティ権に関する言及もなされています。

①韓流の影響力が拡大して有名人の肖像・氏名等を使用する製品及びサービスが多様化しており、それに関連する不法商品の製作・販売行為も増加している。これはこれは有名性を獲得するために相当な時間を投資した努力に対するただ乗り(フリーライド)であり、優秀な品質を期待して製品やサービスを購入する消費者に損害を引き起こす行為であるため、適切に制裁する必要がある。

②民法に基づいて、これらのただ乗り行為を一部は規制することができるが、これは肖像等を人格権として保護するものであり、慰謝料による精神的な損害賠償のみを認めているため、有名人等に発生した財産的損害に対する保護としては限界がある。

③これまで有名人の肖像等を、いわゆる「パブリシティ権」という権利で保護すべきであるという議論もあったが、肖像等が持つ一身専属的な性格のため権利の譲渡が不可能で、有名人に投資した企画会社等に発生した財産的損失を適切に保護することができないという限界がある。

④現行の商標法は、氏名が含まれている商標の登録を許可しているため、有名人の氏名を譲渡不可能な権利として保護すれば、商標権者が有名人の本人ではない場合、パブリシティ権の行使と登録された氏名商標に対する権利行使が衝突する副作用が発生する可能性がある。

⑤一方、最近は、法院で有名人の肖像・氏名等が持つ有名性を「相当な投資と努力の成果」として認められ、それを無断使用して写真集を制作・販売する行為を不正競争行為として制裁した。但し、これは不正競争防止法の補充的一般条項に基づくもので、今後発生する可能性のある全ての多様な形態の無断使用行為を適切に制裁するには限界があるため、法令に明示的な規定を設ける必要がある。

 

前述の通り、同改正案は審査中であり、成立には至っていませんので、今後動きがありましたら改めてご報告させていただきます。

 

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