弁護士野田俊之

ペットと法⑨-トリミングにまつわる法的問題

ペット(特に犬や猫)を飼われている方の中には、定期的にトリミングに通わせているという方もいらっしゃるかと思います。

今回は、このトリミングに関する契約の法的性質やトリミングに関して問題となりうる事例について紹介いたします。

 

1 トリミングサロンを開業するには

 

そもそも、トリミングとは、犬・猫の毛を刈り込み、整えることを言います(広辞苑(第7版)参照)。

 

このトリミングを行う仕事は、一般に「トリマー」と呼ばれていますが、トリマーについては、理容師や美容師のような国家資格がないため、トリマーになるためには、必ずしも資格を取得する必要はありません。

もっとも、民間団体が独自の審査基準に基づいて資格を付与していますので(ジャパンケネルクラブ認定の「JKC公認トリマー資格」、日本動物衛生看護師協会認定の「ドッグ・グルーミング・スペシャリスト」、日本能力開発推進協会認定の「トリマーペットスタイリスト」などの資格が代表的です)、トリミングサロンを開業するにあたっては、これらの民間団体の資格を取得するのが一般かと思われます。

 

また、トリミングサロンを開業するにあたっては、飼主からペットを預かってトリミングを行うことになりますので(保管業)、「第一種動物取扱業者」として、都道府県知事又は政令指定都市の市長の登録を得る必要があります(動物の愛護及び管理に関する法律第10条1項)。

そして、上述した民間団体のトリマーの資格のうちの一部の資格については、当該資格を保有していることにより、第一種動物取扱業の登録申請に必要な要件である「動物取扱責任者」になることができますので、この点からも、トリミングサロンを開業するにあたっては、上記民間団体の資格を取得するのが良いでしょう(参照:京都動物愛護センターHP)。

 

2 トリミング契約の法的性質

 

ペットの飼主が、トリマーに対して、愛犬・愛猫のトリミングを依頼する場合、飼主とトリマーとの間でトリミングについての契約が成立することになりますが、この契約は、法的に見ると、「請負契約」という契約類型に当たると整理することができます。

すなわち、飼主は、トリマーに対して、愛犬・愛猫の外観を整えるために、毛の刈り込みや爪切り、耳掃除などの仕事の完成を依頼し、トリマーがこれを請け負い、そして、飼主は、トリマーに対して、このトリマーの仕事の結果に対して報酬を支払うという契約であると言うことができます。

 

そして、トリミング契約が請負契約に該当することから、契約に別段の定めがない限り、トリミング契約が成立することにより、以下のような法的効果が生じることとなります。

 

①トリマー(請負人)は、飼主(注文者)から引き受けた仕事(トリミング)を完成させる義務を負う(民法第632条)

 

②飼主は、仕事の完成後、犬・猫の引き渡しと同時に、トリマーに対して、報酬を支払う義務を負う(民法第633条)

 

③飼主は、トリマーが仕事を完成しない間は、いつでも、損害を賠償して契約を解除することができる(民法第641条)

 

④仕事の目的物に瑕疵がある場合、飼主は、トリマーに対し、瑕疵担保責任を追及することができる(民法第634条以下)

 

具体的には、仕事の目的物に瑕疵がある場合、飼主は、トリマーに対し、瑕疵の修補又は損害賠償を請求することができます(瑕疵の修補のみを請求する、瑕疵の修補とともに損害賠償を請求する、損害賠償のみを請求するのいずれかの請求をすることができます)。さらに、仕事の目的物に瑕疵があることにより契約目的を達成することができない場合には、契約を解除することもできます。

 

なお、以上の請負契約に関する民法の規定の一部は、2017(平成29)年5月26日に成立した改正民法により改正され、2020(令和2)年4月1日から改正法が施行されることとなりますので、同日以降の契約に関しては、改正民法が適用されることとなります。

 

3 トリミングに関する法的トラブル 

 

トリミング契約については、例えば以下のような法的トラブルが生じることが考えられます。

 

■ケースⅠ

 

Aさんが、近所のトリミングサロンBに、愛犬のトリミングを依頼し、トリミングの完了後、愛犬を迎えに行ったところ、愛犬の毛は短く刈り取られ、Aさんが思い描いていたのとは違った外観になってしまった。

この場合、Aさんは、Bに対し、トリミング料金を支払わなければならないか。

 

(1)報酬義務の有無―仕事の完成

 

上述したように、トリミングの注文者であるAさんは、仕事の完成後、犬の引き渡しと同時に、報酬を支払う義務を負いますので(民法第633条)、ケースⅠにおいても、BがAさんから請け負ったトリミングという仕事を完成したと評価できる場合には、Aさんは、報酬(トリミング料金)を支払わなければならないことになります。

 

そして、トリミング契約における仕事が完成したと言えるかどうかについては、典型的な請負契約の一つである建築工事に関する裁判例が参考になります。

すなわち、過去の裁判例上、建築工事に関する仕事の完成について、「工事が途中で廃せられ予定された最後の工程を終えない場合は工事の未完成に当るものでそれ自体は仕事の目的物の瑕疵には該当せず、工事が予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解すべきである」と判示されています(東京高判昭和36年12月20日高民14巻10号730頁)。

この裁判例によると、トリミング契約についても、契約上予定されていたトリミングの作業が終了した場合には、仕事が完成したと評価されることになると思われます。

 

したがって、ケースⅠにおいても、仮にBによるトリミングの結果がAさんのイメージと異なっていたとしても、BがAさんから請け負ったトリミングの作業工程を一応終了している以上は、仕事が完成したと評価されるものと思われます。そして、その場合、Aさんは、仕事が完成していないことを理由に、報酬の支払を拒むことはできません。

 

(2)瑕疵担保責任

 

他方で、この場合、Aさんは、Bに対して、瑕疵担保責任を追及するという対応を取ることが考えられます。

 

瑕疵担保責任とは、上述の通り、仕事の目的物に瑕疵がある場合に、請負人に対し、瑕疵の修補又は損害賠償の請求、契約の解除をすることができるというものです(民法第634条・第635条)。

そして、ここで言う「瑕疵」については、実務上一般に、契約の趣旨に照らし、目的物が有すべき品質・性能を欠いていることと解されています(最判平成15年10月10日集民211号13頁等参照)。

 

したがって、ケースⅠについても、まず、犬の毛が短く刈り取られたことが「瑕疵」に該当するか否かが問題となります。

 

しかしながら、犬の毛が短いかどうかというのは主観的な評価によるものですので、注文者であるAさんが毛の長さを具体的に指示していたというような事情がない限り、毛が短く刈り取られたというだけで、瑕疵に該当するということは難しいのではないかと考えます。

 

以上のような事態を回避するためには、Aさんとしては、あらかじめ写真を示すなどして、Bとの間でトリミングの具体的なイメージを共有しておくことが重要であると考えます(Bとしても、思わぬトラブルを回避するために、あらかじめAさんの要望を聴き取り、それを記録に残しておくことが重要になるでしょう)。

 

■ケースⅡ

 

Cさんが、知人のトリマーDさんに、愛猫のトリミングを依頼したところ、トリミングの最中、Dが誤って愛猫の耳を切って怪我をさせてしまった。

この場合、Cさんは、Dさんに、治療費等を請求することはできるか。

 

(1)報酬義務の有無―仕事の完成

 

まず、ケースⅡにおいても、そもそも、CさんがDさんに対してトリミングの料金を支払わなければならないかという点が問題になり得ると思われます。

 

この場合についても、ケースⅠと同様に、DさんがCさんから請け負ったトリミングの作業工程を終了したか否かが問題となりますが、DさんがCさんの猫に怪我をさせたことで、トリミングの途中で作業を中断してしまったというような場合には、報酬義務は発生しませんので、Cさんは、Dさんからトリミング料金の支払を求められたとしても、それを拒否することができます。

 

(2)治療費等の請求の可否

 

さらに、Cさんが、Dさんに対して、愛猫の治療に要した費用等を請求することができるかが問題となります。

 

この点について、東京地判平成24年7月26日は、トリミングの際に、トリマーが誤って、猫の尻尾の一部を切断してしまったという事案について、トリマーがトリミングを実施するに際しては、飼主に対して、信義則上、犬又は猫の安全に配慮し、これを傷つけることのないようにトリミングを行うべき注意義務を負っているところ、これに違反したとして、民法第709条に基づき、慰謝料として合計で10万円、治療費や通院費として約2万円の損害賠償請求を認容しました(なお、当該事案においては、トリマーの勤務先であるトリミングサロンを運営する会社についても、民法第715条に基づく使用者責任が認められています。)。

 

この裁判例に従えば、上記ケースⅡのCさんも、Dさんに対して、愛猫の治療に要した実費相当額と、慰謝料として一定の金額を請求することができる可能性があります。

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