弁護士 牧野誠司

中国法務の小窓(第4回)

武田弁護士があまりの多忙ぶりのせいで,中国法務の小窓をいつまで経っても封印したままですので,私が無理矢理別の小窓を作ってみました。

 

実は,JIJICOというインターネットサイト上の記事の作成をご依頼いただいたのですが,中国法務のトピックであるのにもかかわらず武田弁護士が多忙のあまり手が回らないということで,武田弁護士の監修を受けながら,(私も海外法務に携わってはおりますので)私の方で執筆いたしました。

 

このサイト↓に掲載されているのですが,以下にも引用させていただきます。私のコラムと言えば軽い内容だと思っておられる皆さんには申し訳ないですが,まぁまぁ堅い内容です・・・。

http://jijico.mbp-japan.com/2014/09/07/articles12028.html

 

(以下,記事抜粋です)

 

中国自動車業界における価格談合に関し、国家発展改革委員会(発改委)は20日、日本の部品メーカー10社に計 12億3,540万元(約207億円)の制裁金を科したと発表しました。

 

本件については、「日本企業つぶしではないか」という意見もありますが、それに反対する専門家もいます。いずれにせよ、事の真偽は外部からは断定し ようがなく、仮に不平等な法執行がなされたとしても、そのようなことは中国に限らず過去の諸外国における商取引において珍しくもなんともないことであって (例えば、「アンチダンピング課税」の恣意的な適用など)、目くじらを立てるのはもはや国際商取引においては「ナイーブ(未成熟)」な態度といえるでしょ う(もちろん、国家間の交渉による解決も行われるべきですが)。

 

私企業としては、結局のところ「最小限のコストで法令順守を達成すること」を目指すほかありません。法令を順守しないと、結局は手痛い打撃を受けて利益を損なうことになるのは、もはや確定した時代の流れです。

 

中国法務におけるコンプライアンス体制の整備、5つのポイント

 

中国法務におけるコンプライアンス体制の整備については、以下の点を心がけることが肝要です。ここに挙げるのは、法的な理屈ではなく、極めて実践的・実務的な対策です。

 

(1)まず、中国駐在スタッフ・支社・子会社と日本国内の管理部とを切り離さず、国内の管理部が中国での企業活動の法務リスクも管理する体制を構築 する必要があります。「中国のことは中国駐在スタッフあるいは支社が管理すべき」といって切り離すのは楽であり、ついついそうなりがちですが、駐在組に法 務管理までできるスタッフが派遣されていることは少なく、また、管理を完全に独立させると、中国内に「ブラックボックス」ができてしまう可能性が高いとい えます。

 

(2)さらに、中国国内においても、中国に駐在している日本人スタッフが、現地スタッフとのコミュニケーションと、それに対する監督を十分に行うこ とも非常に重要で、「誤解なく伝達すること」「確認・監査すること」を可能にするために、現地従業員との情報伝達はできる限り口頭ではなく電子メールで行 うといった運用を構築することが有益です。電子メールは後にマイナスの証拠にもなり得るますが、そのプラスの効用の方がはるかに大きいといえます。

 

(3)そして、以上のような体制のもとで、現地法についての最新情報・動向を踏まえておくことも重要です。今回のカルテルについて適用された「反独 占法」は、2008年に施行されたばかりの法律であり、日本と異なり、中国においては急速に法整備が進んでいることから、法改正や法執行についての情報を 素早く取得することが欠かせません。

 

(4)加えて、現地に駐在しているスタッフにおいては、監督官庁や地域の役所の官僚とのコミュニケーションも密にとり、法の運用についての情報を得ておくのも有益です。

 

(5)最後に、なんらかの問題が発覚した場合、あるいはその兆候が見られた場合は、それに対する調査を決して現地任せにせず、できれば弁護士等の第 三者機関を利用して。急ぎ事実関係を把握するようにすべきです。問題の発生源に、問題の解決を期待することはできません。そして,特に商品の「値決め」に ついては、談合・カルテルの規制に振れやすい部分であることから、重点的に、そのプロセスを監査・レビューすることが望ましいでしょう。

 

国際的に法令順守は経済合理性の観点からの火急の要請に

 

上記、法令順守体制の整備の結果として、法令違反の事実が判明した場合は、それを「隠匿する」というのが道義的・法的に誤っていることは言うまでも ありませんが、ビジネス的にも大間違いです。今回の中国での談合問題でも活用された「リニエンシー制度」の存在が、その理由です。

 

リニエンシー制度とは、談合などの不正に関わった企業であっても、調査当局の調査開始前(場合によっては後にでも)に不正を自己申告すれば、課徴金 の減免あるいは刑事告発の免除がなされる制度であり、今回の中国での談合案件でも、積極的に価格カルテルの関連情報を自主申告し、重要な証拠を提供した不 二越と日立オートモティブシステムズは罰金を免除されたとのことです。他方で、今回の事件でも明らかになったように、調査当局の調査能力は日に日に向上し ており、担当者レベルでの素朴な隠匿によって不正を隠しきれる見込みはほぼありません。

 

したがって、不正・不祥事を隠匿することは、もはや経済合理性の観点から見ても明らかに誤った態度であり、不正・不祥事の疑いが持たれたときに肝要 なのは、「速やかな事実関係の把握(証拠収集を含む)」「速やかな法的問題点の抽出」「速やかな報告書類の作成と提出」の3点です。いずれも調査当局の手 が伸びる前に「速やかに」実施することが重要です。

 

もはや、法令順守は、単に倫理上・道徳上の要請などではなく、経済合理性の観点からの火急の要請になっているものであることは国際ビジネスの常識で す。「儲かってから」コンプライアンスにお金をかけるのではなく、「儲かるために」コンプライアンスを徹底する意識が必要といえるでしょう。

 

 

以上になりますが,武田先生,ついに僕がやってしまったやないか・・・。早く続編書きなさい(笑)。

牧野 誠司

弁護士牧野 誠司

どのような事件に対応させていただくときでも、「牧野弁護士に依頼して良かった」と言っていただけるよう、そのご依頼者のために最良の解決を目指して努力させていただくことを日々の指針としています。

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