弁護士 武田雄司

中国法務の小窓(第2回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国共産党はなぜエライのか―中国の国家機構~行政組織①」

中国法務の小窓(第2回)~中国ビジネスをあなたの手の中に~「中国共産党はなぜエライのか―中国の国家機構~行政組織①」

弁護士 武田雄司

 

昨年末に小窓を一度OPENしてからはや5ヶ月…開かずの小窓になっていましたが、気を入れ直して、第2回を始めたいと思います。

 

今回のテーマは「中国の国家機構~行政組織」についてです。

 

第1回では、中国側から、「政府の人からOKが出ました!」という報告が届いたときに、それだけで安心せずに、どこの部門の誰の発言であるかというところまで確認しましょう、ということをお伝えしましたが、本稿から数回に分けた回では、最終的に、それらの確認の際に役立つ、中国の行政機関の各部門の大枠を抑えていただく基礎的知識をご紹介できればと思っています。

遠回りになりますが、まずは中国憲法の基本原理からご紹介し、次に国家機構の紹介、最後に行政組織の紹介ができればと考えています。

 

1.中国憲法の基本原理―3つの概念

キーとなる概念:①人民民主主義独裁、②社会主義国家、③民主集中制

 

1.1 ①人民民主主義独裁=実質上のプロレタリアート(無資産階級)独裁

「中国では中国共産党が一番エライ!」ということは皆さんの共通認識ですが、実は、憲法に「中国では中国共産党が一番エライ!」と直接書いてあるわけではありません。

この命題を支える概念が、人民民主主義独裁=実質上のプロレタリアート(無資産階級)独裁の考え方です(憲法上は「中華人民共和国は、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家である。」(憲法1条1項)という規定に表現されています。)。

中国は、「人民」=実質上のプロレタリアート(無資産階級)が一切の権利を有し(憲法2条1項)、敵対勢力であるブルジョアジー(資産階級)を支配する国家とされていますので、形式的に一番エライとされているのは「人民」です。

 

では、なぜ中国では中国共産党が一番エライのか?

 

憲法前文には、一番エライ「人民」の行動目標として、中国を「富強、民主的かつ文明的な社会主義国家として建設する」という目標が謳われていますが、「人民」は「中国共産党の指導の下」に、これらの目標に向かって行動するとされています。つまり、中国共産党は、一番エライ「人民」を指導する役割を担っているということです。まさに、これこそが、「中国では中国共産党が一番エライ!」となる理由です。

 

では、なぜ中国共産党は、「人民」を指導する役割を担うのか?指導的地位の正当性の根拠はどこにあるのでしょうか。

 

この根拠、実は、「歴史」でしかないのです。

 

憲法前文には,1840年以降の革命の歴史が記されていますが、ポイントをご紹介すると、次のような内容です。

「1911年、孫中山先生の指導する辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した。

(中略)

1949年、毛沢東主席を領袖とする中国共産党は、中国の諸民族人民を導き、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆して、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。

中華人民共和国の成立後、我が国の社会は、新民主主義から社会主義への移行を一歩一歩実現していった。

(中略)

中国の新民主主義革命の勝利と社会主義事業の成果は、中国共産党が中国の諸民族人民を指導し、マルクスレーニン主義及び毛沢東思想の導きの下に、真理を堅持し、誤りを是正し、多くの困難と危険に打ち勝って獲得したものである。

(中略)

中国の諸民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクスレーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論及び「3つの代表」の重要思想に導かれて、人民民主主義独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を不断に完全化し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更生し、及び刻苦奮闘し、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明及び精神文明の調和のとれた発展を推進し、我が国を富強、民主的かつ文明的な社会主義国家として建設する。

(中略)

長期にわたる革命と建設の過程で、中国共産党が指導し、民主的諸党派及び人民諸団体が参加し、社会主義勤労者、社会主義事業の建設者並びに社会主義を支持し、あるいは祖国の統一を支持する愛国者のすべてを1つにまとめた広範な愛国統一戦線が、既に結成されている。この統一戦線は、引き続き強固となり、発展するであろう。中国人民政治協商会議は、広範な代表性を持つ統一戦線の組織として、これまで重要な歴史的役割を果たしてきたが、今後、国家の政治生活、社会生活及び対外友好活動において、また、社会主義現代化の建設を進め、国家の統一と団結を守る闘いにおいて、更にその重要な作用を発揮するであろう。中国共産党指導の下における多党合作及び政治協商制度は長期にわたって存在し、発展するであろう。

(中略)

この憲法は、中国の諸民族人民の奮闘の成果を法の形式で確認し、国家の基本となる制度及び任務を定めたものであり、国家の根本法であり、最高の法的効力を持つ。全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれも憲法を活動の根本準則とし、かつ、憲法の尊厳を守り、憲法の実施を保証する責務を負わなければならない。」

(憲法の条文は、キャストコンサルティング株式会社の法令データベース〔http://law.cast-china.biz/index.php?a=1〕から引用させていただきました。)

 

以上、引用が長くなりましたが、ポイントは、歴史上、「人民」が一番エライ国家が樹立し発展する過程において、中国共産党の指導が非常に重要であったこと、そして、「人民」は「引き続き中国共産党の指導の下に」おいて、「国を富強、民主的かつ文明的な社会主義国家として建設する」ことを目標に行動することが憲法上明言されている点です。

 

このように、「引き続き」中国共産党が指導する理由・根拠は、歴史上、中国共産党の指導の下で「人民が」が権力を掌握し、素晴らしい発展を遂げてきたことに集約され、ここから、指導的地位の正当性の根拠は、「歴史」でしかないという結論になるのです。

 

もっとも、2004年の憲法改正においては、「歴史」に加えて、中国共産党が「中国の最も広範な人民の根本的利益」を代表する組織であることを宣言する「3つの代表(※)」思想を、「人民」を導く思想の一つとすることで、中国共産党の指導的地位の正当性の根拠づけに一応一つの理論が追加されました。

確かに、この「3つの代表」思想によって、それまで中国共産党への入党資格がなかった「私営企業家」にも入党資格が与えられるようになるという大きな変化はありました。

しかし、結局のところ、中国共産党が「人民」の指導的立場に立つ、理論的な根本は、やはり「歴史」でしかないという点には変更ありません。

 

※「3つの代表」…中国共産党が、①中国の先進的な社会生産力の発展の要求、②中国の先進的文化の前進の方向、③中国の最も広範な人民の根本的利益を代表するという思想

 

ところで、「3つの代表」思想によって、私営企業家に中国共産党入党資格が付与されましたが、私営企業家は、本来的には「人民」が支配すべきブルジョワジーであり、「人民」の敵対勢力・敵対分子です。そんな立場の人を、「人民」を指導する中国共産党に入党させてしまっていいの?という素朴な疑問にはどのように答えるのでしょうか。

 

一つの回答は、②社会主義国家の観点から、個人経済、私営経済等を社会主義市場経済の重要な構成要素と認める文脈に関連して説明がなされることになるのでしょうが、①人民民主主義独裁の観点からは、残念ながら、(私個人では論理的な回答ができないという趣旨で)もはや回答不能な状態なのではないでしょうか。

 

③民主集中制まで書くつもりが、思いのほか、長くなりましたので、第2回はここまで。

第3回の冒頭で「早いもので、もう年末ですね。」なんてことにならないように、続きは近いうちに。

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