弁護士 髙橋健

医療法務の知恵袋④

医療法務の知恵袋④【病院の新たな取り組み~医療事故への対応が変わる~】

 

弁護士  髙 橋  健

 

昨日,私自身も会員となっている「医療と法ネットワーク」(※1)主催の「医療事故調査制度の発足と医療現場の対応」というフォーラムに参加してきました。

 

このフォーラムでは,今年の6月に医療法が改正され,来年10月から制度施行されることに決まっている「医療事故調査制度」の制度概要や制度施行に向けた最新の動向が紹介され,情報のアップデートに大変役立ちました。

 

また,大学病院内における医療事故が起こった際のクライシスマネジメントも紹介され,普段聞くことができない貴重なお話が聞け,大変有意義なフォーラムとなりました。

 

そこで今回,このフォーラムを通じて私がアップデートした医療事故調査制度に関して,簡単に情報提供しておきたいと思います。

 

1 医療機関の管理者は,医療事故が発生したら,調査・報告しなければならない!

 

まず,最初にお伝えしますと,現時点では,制度の概略は決められていますが,細かな部分(例えば,報告しなければならない医療事故の範囲など)は,未だほとんど決められておらず,今後,厚生労働省の検討会において検討し,定められるガイドライン等によって決定されることとなっています(本当に来年10月から制度開始できるのか,と思いますが,それはさておき)。

 

しかしながら,今般の医療法改正により,病院,診療所又は助産所(以下「病院等」といいます。)の管理者は,医療事故が発生した場合には,遅滞なく必要な事項(この内容も,現在検討中とのことです)を医療事故調査・支援センターに報告しなければならないことは,すでに法文化されています(医療法6条の10第1項)。

 

また,その後,病院等においては,院内で事故原因の調査を実施する必要があり,その結果を医療事故調査・支援センターに報告する必要があります(医療法6条の11第1項,第4項)。

 

さらに,病院等は,上記報告にあたっては,あらかじめ遺族の方にも,必要な事項を説明しなければならないこととなっています(医療法6条の10第2項,同法6条の11第5項)。

 

このように,対象となる範囲等が未だ具体的に決まっていないため,実際上,どれほどの負担がかかってくるのかは未知数ですが,以上のような報告や調査が,法律上,医療機関に求められることとなったのは間違いのないことであり,医療機関の方々においては,来年10月以降,注意が必要となります(※2)。

 

2 調査の結果,医師の責任追及に繋がらないか!?

 

実は,この医療事故調査制度は,以前より度々,議論にあがっていました。

 

しかしながら,その度に,反対派の意見が根強くあったため,見送られてきました。

 

その反対派の理由の一つとしては,この事故調査が医師の責任追及の場になるのではないか,との懸念でした。

 

とりわけ,医師の刑事処分への契機にもなりかねない,との危惧がありました(現に,いわゆる「2008年大綱案」においては,第三者機関において,標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡の疑いがあれば,警察への報告がなされる旨定められていました)。

 

そこで,今回の制度においては,目的を死因究明と再発防止に特定させ,医師の責任追及の場としないことを明確に打ち出しています。

 

もっとも,前述の通り,院内調査の結果は,遺族に説明することとなっていますし,また,医療事故調査・支援センターは,遺族から当該医療事故の調査の依頼があったときは,必要な調査を行い,遺族にその結果を報告することになっていますので(医療法6条の17第1項,第5項),事実上は本制度による調査がきっかけで,民事裁判等が惹起されることも十分考えられるのではないでしょうか。

 

今後,厚生労働省の検討会によって,医療機関から遺族に説明する事項等も固まっていくものと思われ,その点,注目したいと思います。

 

 

3 最後に(個人的な関心事)

 

最後に,少しだけ医療事故調査制度に関連して,個人的な関心事項をお話させてもらいます。

 

私個人としては,医療事故調査制度について,別の視点から関心をもっている部分がありまして,それは無過失補償システムの構築です。

 

現在,医療事故に関しては,医師の過失あり・なしによって,患者側への金銭賠償の有無が決せられる仕組みとなっています(※3)。

 

しかし,当然ながら,回避できないリスク(医療事故)というものも存在するはずであり,そのようなリスクの分散のための補償システムが構築されれば,と思うことがあります。

 

これは,患者側の救済に資することは勿論ですが,むしろ私は,医療機関側の利益にも資するのではと思っています(そのようなシステムが構築されることで,医療への委縮効果を取り除き,ひいては,医師の先生方が健全に日々の診療行為に取り組めるのではないでしょうか)。

 

そして,このような補償システムが,今回の医療事故調査制度の洗練・進化とともに構築されればと思っております(もちろん,簡単なことではなく,あくまで長期的な課題というカテゴリになってしまうでしょうが)。

 

以上,とりとめのないコラム,失礼しました。

 

 

※1 「医療と法ネットワーク」は,医療関係者と法律関係者とによる「医療と法律の橋渡し」となる対話の場を提供することを目的として2010年に設立された団体です。

 

※2 制度の概略図については,厚生労働省のHP上のものが比較的簡便で分かりやすいのでご参照ください。

 

※3 もっとも,現在においても,限られた領域ではありますが,「産科医療補償制度」といった補償制度が存在します。

 

 

弁護士 髙橋健のその他のコラム

一覧で見る