弁護士 林村涼

所有権と著作権

新進気鋭の画家が風景を描いた作品(以下「本件作品」といいます。)を購入し、それを撮影した写真を誰でも閲覧できる態様でSNSにアップする。よくありそうな話ですが、実はこの行為、当該画家の有する複製権や公衆送信権という権利を侵害しています。

 

複製権は、「著作物を複製する権利」(著作権法第21条)をいい、公衆送信権は、「著作物を公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利」といいます(著作権法第23条第1項)。

 

これらの権利はいずれも、ニュースなどでもよく耳にする「著作権」の一つだとご理解いただけたらと思います。

 

そして、著作権は、著作物(=思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)(著作権法第2条1号)を創作した者が当該著作物に対して有する権利(上述の複製権や公衆送信権を含む)の総称です(著作権法第17条第1項)。

 

では、本件作品を購入した人は、本件作品の所有権のみならず、画家が紙やキャンバスに描かれた絵画に対して有している著作権も取得できないのでしょうか。

 

結論から申し上げるとできません。というのも、所有権と著作権とでは権利の客体が異なるからです。つまり、本件作品の購入は、本件作品の所有権の取得を意味するところ、所有権とは有体物(上記事例で言えば、本件作品です。)に対する排他的支配権である一方で、著作権は、表現(無体物;上記事例で言えば「紙やキャンバスに描かれた」絵画)に対する排他的支配権であるため、画家が(本件作品ではなく)絵画に対して有する著作権の取得までは意味しないのです。

 

このような所有権と著作権の相違点が問題になったのが、顔真卿自書建中告身帖事件と呼ばれる事案です(最高裁昭和59年1月20日民集38巻1号1頁)。

 

■事案の概要

中国唐代の著名な書家である顔真卿の自書告身帖を所有しているXが、「自書告身帖」の前所有者の許諾を受けて直接撮影により作成された写真乾板を第三者から譲り受け、これを使用して自書告身帖を複製し、これを掲載した書物を出版したYに対し、当該書物の販売の差止及び廃棄を求めました。

■判旨

「美術の著作物の原作品は、それ自体有体物であるが、同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ、所有権は有体物をその客体とする権利であるから、美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。」とし、Xの上告を棄却(Xの請求が認められないことが確定)しました。

 

このように、著作物の購入後(=当該著作物の所有権の取得後)も依然として著作権を侵害してしまうリスクはあります。

 

著作権法は、作家や芸術家でもない限り、無関係だと思われがちな法律の一つですが、誰でもSNSを使って情報を発信できる現代において、著作権法は極めて身近な法律ですので、定期的にコラムの形で、情報を発信する予定です。

 

弁護士 林村涼のその他のコラム

一覧で見る