弁護士 林村涼

現代アートと著作権

徳島県鳴門市にある大塚国際美術館に行った時の話です。そこでは、多くの有名な絵画が美術陶板で展示されていましたが、その際、真っ青の絵(『青のモノクローム』イヴ・クライン)が現代アートの展示ブースにありました。その当時は、著作権法という法律を全く知らなかったので、何の疑問も抱かなかったのですが、今であれば以下のような疑問が浮かびます。「カンバスに青色の絵具を塗りたくった作品は、著作物であるとして著作権法の保護を受けるのか」という疑問です。

 

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをい」います(著作権法第2条第1項第1号)。すなわち、表現者の何らかの考えや気持ちおよび表現者の個性が表現されている必要があり、それが文芸、学術、美術、音楽に属するものでなければならないわけです。

 

そして、上記定義から、著作物は、著作者が自らの思想、感情を具体的に表現したものをいいますので、具体的な表現を生み出すもととなった思想、感情それ自体は著作物として保護されません。

 

したがって、ある画法を発明した人が当該画法を用いて描いた絵画は、画家の美術的な思想、感情を創作的に表現したものとして、著作権法上、著作物として保護されるとしても、当該画法それ自体は、画家の美術的な思想、感情そのものですので、著作物として保護されません。そのため、絵画の具体的表現を模倣すれば著作権侵害となりえますが、絵画に表現された画法を模倣して別の絵画を描いても著作権侵害となりません。

このように、著作者の思想、感情そのものとその具体的表現とを区別し、具体的表現のみを著作物として保護しています。このような考え方を講学上、「表現・アイデア二分論」といいます。

 

裁判所も表現・アイデア二分論を採用しており、そのことを示す裁判例を紹介します。

 

【事案】(京都地判平成 7.10.19「アンコウ行灯」事件 判時 1559号 132頁)。

アンコウと題する行灯を創作したXが、Yの創作した行灯を類似品であるとして著作権侵害を主張しました。

 

【判旨】

「個々の構成・素材を取り上げたアイデアや構成・素材の単なる組み合わせから生ずるイメージ、著作者の一連の作品に共通する構成・素材・イメージ(いわゆる作風)などの抽象的な部分にまでは(筆者注:著作権は)及ばないと解するべきである。」

Xは、「著作物の表現形式上の本質的な特徴は、いわゆる従来の「火もらい」とは異なるデザイン重視の容器を製作し、さらにその容器内部に液体を満たして、その表面上に発光体を浮かべて、一体のものとして幽玄な空間を表現している点に存する旨主張するが、こうした点は個々の著作物を離れた抽象的なアイデアに属するものであり、右の点の類似のみを理由として著作権侵害の有無を論じることはできない。」とし、Xの請求は棄却されました。

 

それでは、冒頭の私の疑問ですが、青色の絵具の塗り方や色合い・色彩に、画家の思想・感情を具体的に表現されており、作品に創作性が認められるため、著作物性が認められるといえるでしょう。ただし、『青のモノクローム』を描いた画家が、この作品を模倣して緑色の絵具をカンバスに塗りたくった緑のモノクロームなる作品を描いた画家に対し、著作権侵害を主張できるかというと、単一(と見える)の色をカンバス一面に塗るという表現法そのものはアイデアにすぎず、著作物として保護されないため、著作権侵害を主張できない、ということになるでしょう。

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