弁護士 森下裕

著作権のハナシ(オリンピックロゴマーク問題)

2020年東京オリンピックが延期になり、今年開催が見込まれていますが、始まる前の東京オリンピックで印象に残っているのは、ロゴマーク問題ではないでしょうか。

この問題は、2020年東京オリンピックのロゴマークとして選ばれた佐野研二郎氏のデザインが、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークに酷似しているとして、同劇場とそのロゴマークをデザインしたオリビエ・ドビ氏が、佐野氏のデザインしたロゴマークの使用の差し止めを求めてIOC(国際オリンピック協会)を提訴したものです。

結末としては、佐野氏のロゴマークは正式に採用されず、訴えも取り下げられましたが、世間に大きな衝撃を残した問題となりました。

 

このように東京オリンピックロゴマーク問題として、大きく世の中の関心を惹きつけた著作権ですが、自分には関係がないと思われている方も多いかもしれません。しかし、Youtube・Instagram・Twitterなど自分で動画や画像を手軽に発信できる今の時代には、一般生活と著作権は切っても切り離せないものです。いつ自分が佐野氏のように紛争に巻き込まれてもおかしくない時代なのです。

 

このコラムで、東京オリンピックのロゴマークの問題をもとに、皆様にも著作権について少し知っていただければと思います。

 

皆様が作った物は、著作権法という法律で守られていて、著作権法にいう「著作物」に当たれば、その物については、作った人に「権利」が認められます。

この権利とは、公表権、同一性保持権、複製権、公衆送信権、翻案権などで、これらの権利は著作権法に規定されています(著作権法18条〜28条に列挙されています)。

 

それでは、冒頭で紹介したオリンピックのロゴマークについては著作権法上何が問題になるか考えてみましょう。

 

まず、リエージュ劇場のロゴマークは著作物と言えるかどうかです。結論からいえばこれは認められるでしょう。

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法第2条1項1号)とされていますが、簡単にいえば、芸術的で独創的なその人の個性が表れているものです。反対に言うと、個性の出ようのない単なる事実であったり、誰でも思いつくようなありふれた物では著作物として保護されません。また、アイデアについても著作権の保護の範囲には含まれません。

リエージュ劇場のロゴマークはとてもシンプルで、アルファベットの「T」を模したデザインとなっているため、シンプルがゆえに誰でも思いつくようなありふれた物考えられる余地もありますし、独創性がないとされる余地もあります。例えば、単純にアルファベットの「T」の下に文字を書き込んだロゴマークにデザインについて著作権を認めてしまうと、誰も使えなくなってしまい、不都合が大きくなってしまいます。

しかし、リエージュ劇場のロゴマークは「T」を模したと思われるデザイン自体に独創性が認められると考えますので、この点問題はないでしょう。

 

次に、佐野氏のデザインしたロゴマークが、リエージュ劇場のロゴマークを侵害しているかについてです。

先にご説明した、権利のうち問題となりそうなのは、翻案権です。

翻案権侵害にあたる行為とは、判例によると、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的に表現修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」とされています(江差追分事件:最判平成13年6月28日)。

すなわち、既存の著作物の存在を知ってその著作物を自己の作品に利用し(主観的要件)、表現上の特徴が同一であること(客観的要件)が翻案権を侵害するか否かの判断となります。

佐野氏は、「先方のデザインは見たことがない。」と発表し、具体的にリエージュ劇場のロゴと佐野氏のロゴの異なる点を説明しました。これは主観的要件にも客観的要件にも該当せず、翻案には当たらないとする主張でした。

実際に佐野氏がエージュ劇場のロゴマークを知らなかったのかは分かりませんが、客観的要件の点については、どうでしょうか。

たしかに一見、この2つのデザインは似ている物という印象を受けますが、佐野氏の会見での説明によると、自身が着想を得たのは、広く一般的に使われている「ディト」・「ボトニ」というフォントで、リエージュ劇場のロゴマークはTとLの組み合わせで作られているが、自身の作った物はTと円の組み合わせであると主張しました。

このように聞くと、着想自体も異なり、実際の2つのロゴマークも違いが多々見受けられるので、客観的要件にも該当しないようにも思います。シンプルなデザインであるがゆえに、偶然の一致があったのではないかと私自身は考えています。

 

以上のように、東京オリンピックのロゴマークについては、私自身はリエージュ劇場のロゴマーク著作権を侵害していないと考えますが、第三者から見て著作権を侵害しているかを判断するのはとても難しい問題です。

今後、いつ皆様が佐野氏のような紛争に巻き込まれるか分かりません。その時に皆様は自分の作った物について、自信を持ってオリジナルの作品であると言えるようにしていただきたいと思っています。

今後このコラムでは、皆様に著作権について考えるきっかけにしていただけるように、実際にあった事件を紹介して、著作権のハナシを紹介していこうと思います。

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