弁護士 森下裕

著作権のハナシ③(音楽教室での演奏に使用料は必要か)

小さい頃に音楽教室でピアノを習って一生懸命練習をして今でも音楽に慣れ親しんでいる方は多いのではないでしょうか。私も幼い頃から、ピアノを習い、今でもときどき実家に帰ったときにピアノ演奏を楽しんでいる一人です。

音楽教室では、バイエルというピアノ教本の練習や皆さんが知っているようなクラシックの名曲などを始め、先生に最新のJ-POP曲を教えてもらったりなどとても楽しかった覚えがあります。

 

当時は、著作権について全く考えていませんでしたが、最近この音楽教室で先生と生徒が楽器を演奏する行為には、事業者は使用料を支払わなければならないとして、権利者であるJASRACが、音楽教室を運営する法人及び個人に対して、使用料の徴収を開始する方針を決めたところ、音楽教室を運営する法人及び個人が使用料の支払の必要はないとして訴訟を提起したという事件がありました。

その控訴審判決が先般言い渡され知財高裁令和3年3月18日判決。以下「本判決」といいます。)、第一審判決(東京地裁令和2年2月28日)では、JASRACの全面勝訴でしたが、控訴審である本判決は、音楽教室を運営する法人及び個人の請求について一部認める判決(生徒の演奏について使用料を支払う必要はないとの判決)を言い渡しました。

 

著作権法は、音楽の著作物について「公衆に」「聞かせることを目的として」「演奏する権利」(演奏権:著作権法22条)を認めており、著作権者は、対価を得て演奏についての許諾をすることができます。

本件訴訟の争点は、多岐にわたりますが、本コラムでは、生徒又は教師の音楽教室における演奏が「公衆」に対して「聞かせることを目的」とするものであるかに焦点を当てて見てみます。

 

控訴審は、「教師による演奏については,その行為の本質に照らし,本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり,不特定の者として『公衆』に該当する生徒に対し,『聞かせることを目的』として行われるものというべきであ」り、「音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるから,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるから,『公衆に直接(中略)聞かせることを目的』とするものとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。」と判示しました。

 

これまでの判例法理としては、いわゆるカラオケ法理と呼ばれる侵害主体を総合的に考慮して上で侵害の有無を判断していました(最高裁第三小法廷昭和63年3月15日、最高裁第一小法廷平成23年1月20日判決等参照)。

本判決も判例法理を踏襲し、教師の演奏については、その経営主体の演奏であり、侵害に当たるとしましたが、生徒の演奏については、「生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法について一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受けるための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒であるというべきである。」として、カラオケ法理の射程外と判断しています。

 

上告も含めて今後の判断が待たれるところですが、本判決が生徒の演奏については、演奏権の侵害に当たらないと判断したことは、今後の判例に大きな影響を与えそうです。

ちなみに、JASRACは、個人の音楽教室については、管理水準が一定のレベルに達するまでは管理の対象としないこととしていますので、私の通っていた様な小さなピアノ教室を経営されている方は、今の所使用料徴収については安心できそうですね。

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