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オーストラリアビジネス法務(22)-The Modern Slavery Act 2018 (Cth) (Act)(2) 現代奴隷法とSDGs-

弁護士 髙橋健

 

オーストラリアビジネス法務(20)-The Modern Slavery Act 2018 (Cth) (Act)とは-では、オーストラリアで制定された現代奴隷法のことをご紹介しました。

 

今回は、その現代奴隷法の続きです。

 

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1.各企業の報告状況

 

連邦法の現代奴隷法(The Modern Slavery Act 2018 (Cth) (Act))は、2019年1月に施行開始され、この間、同法が適用される企業が続々と同法”Part 2Modern slavery statements”に定められている現代奴隷法報告書を提出しています。

 

そして、それらの報告書は、同法第18条”Modern Slavery Statements Register”の(1)に記載の通り、行政(大臣)において” a register”としてまとめて維持管理され、かつインターネットを通じて誰でも無償で閲覧できる状態におかれています。

 

“the Australian Government’s Online Register for Modern Slavery Statements”がそれにあたり、このウェブサイトの”The Register”のページにて、各企業から提出済みの報告書を閲覧することができます。

 

そのため、今後、「現代奴隷法の遵守」という観点から、報告書を提出している企業と取引をする(あるいはすでに取引をしている)企業、または報告書を提出している当該企業のサプライチェーンにいる企業は、同報告書の内容を踏まえて自社も現代奴隷法を遵守することが必要となりますし、もし報告書を提出している企業が同報告書の内容に抵触する取引や言動を取っている場合は、Australian Border Force(“ABF”)への通報等により問題が顕在化することが考えられます(ABFのWebsiteには、Feedbackのページもあり、情報提供ができる仕組みがとられています)。

 

またこのThe Registerのページでは、検索機能が比較的充実しており、”Countries where headquartered”や(ちなみに、日本が本社の企業の報告書を検索できるボタンもあります)、”Industry Sectors”などもありますので、今後、報告書を作成する企業にとって参考例にもなり得るかと思います。

 

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2.Modern slavery clauseについて

 

現代奴隷法第16条では、企業が提出する報告書に含めなければならない事項が列挙されています。

 

そこでは、例えば、同条第1項(d)にて、”describe the actions taken by the reporting entity and any entity that the reporting entity owns or controls, to assess and address those risks, including due diligence and remediation processes”との記載事項が、また次の(e)にて、”describe how the reporting entity assesses the effectiveness of such actions”との記載事項があげられています。

 

そして、この現代奴隷のリスクに対する措置等として、サプライチェーンにおける各契約書にModern slavery clause(現代奴隷に関する契約条項)を設けることが考えられます(勿論、そのような契約条項を設けるだけでは、現代奴隷のリスクに対する必要十分な措置を取ったことにはなりませんが)。

 

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このアンチ現代奴隷に関する契約条項例は、先ほどご紹介したABFの“the Australian Government’s Online Register for Modern Slavery Statements”の”Resources”のページ内で、”Modern Slavery Model Contract Clause”として紹介されています(本コラム作成時点)。

 

しかも、この現代奴隷に関する契約書条項モデルでは、簡易版、標準版、詳細版を3パターンも紹介されており、とても参考になります。

 

以前、日本でも、社会的な問題意識の高まりを受けて、反社会的勢力の排除条項が標準的な契約書の条項になっていたことを思い起こさせます(現在、標準的なビジネス契約書では、ほぼ間違いなくこのような反社会的勢力の排除条項が入っている印象です)。

 

今後は、サプライチェーンにおける各契約書には、このようなアンチ現代奴隷条項が必須になってくるかもしれません。

 

 

なお、余談ですが、オーストラリア政府のHP上には、ClauseBankというページがあり、標準的な契約書条項が紹介されています。

 

その中に、今回の現代奴隷に関する条項も紹介されています。

 

 

上記ClauseBankのページには、それが設けられた背景や注意点等が記載されていますので、それらに留意しながら、参照する必要があります。

 

 

3.現代奴隷法とSDGsとの関係

 

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昨今、よく耳にするようになったSDGs(Sustainable Development Goals。持続可能な開発目標)ですが、この現代奴隷の問題は、このSDGsでも目標の一つに掲げられているものです。

 

例えば、SDGsのGoal 5では”Gender equality”(ジェンダー)が定められ、そのうち「5.2」では、” Eliminate all forms of violence against all women and girls in public and private spheres, including trafficking and sexual and other types of exploitation”と定められ、ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の エンパワーメントを行うことが掲げられています。

 

また、Goal 8では”decent work and economic growth”(経済成長と雇用)が定められ、そのうち「8.7」では、”Take immediate and effective measures to eradicate forced labour, end modern slavery and human trafficking and secure the prohibition and elimination of the worst forms of child labour, including recruitment and use of child soldiers, and by 2025 end child labour in all its forms”と定められ、強制労働を根絶し、現代の奴隷制等を終わらせるための措置の実施等が掲げられています。

 

 

これらのものは、現代奴隷法第4条で定義づけられている”modern slavery”にも該当し得るものであり、その意味では、現代奴隷法は、SDGsで目標として掲げられている事項の一部を、一定の事業体に対して法的義務まで高め、その実現を図ろうとするものと評価できるかと思います。

 

 

このように、現代奴隷法で求められているものは、現在の国際的な潮流と一致するものであり、今後さらにその存在感は増していくのではないかと思います。

 

本コラムでも、引き続き、現代奴隷法を取り上げていければと考えております。

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

 

【弁護士 高橋 健】

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